第66話 春の海

文字数 307文字

問い掛けは木霊のように返ってくる。
それは望むことではなく、また求めるものでもない。
意識の海に漂う、波向こう。引かれた白線だけが残ったのなら、
夢の中だけで存在することもあるのだろう。

打ち寄せる波の数だけ語られる夢のように、
白い波際の続く海は、どこまでも穏やかに微笑む。
遠くに見える雨雲も、ここまではやってこない。
繰り返し歌うように、全てはここから生まれてくる。
小さな心でも救われるよう、そっと祈ってみたら、
なんのことはない、既に応えてくれていた。

きみに幸あれ。そう思えたなら、優しい記憶だけが残る。
尽きた夢が思い出で満たされる時、うれしさが溢れ出し、
物語が始まる。
失うことを恐れながら、また、
美しい名を呼べるだろう。
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