第32話 聞こえる谷

文字数 315文字

龍の谷で耳を澄ませば、君の声が聞こえる。
“待ってたんだよ、ずっと”
ゴロー太には、そう聞こえる。
歩き続ければ、もっと違う声を聞くことができる。
“僕も待ってたんだ”
ゴロー太は、そう答える。

聞こえるだけじゃない。
風に向かって話せば未来に、
風に背を向ければ過去に話せる。
ゴロー太は、過去に話しかける。
あの時、言えなかったこと、
あの時、言わなければ良かったこと。
振り返れば、いつも優しさに満ちている。

ゴロー太は、走り出す。
風に向かって走り出す。
冷たい風で、今にも凍えそうだ。
“待っててよ”
ゴロー太は、話しかける。
いっぱい、走らなきゃいけないんだ。
だから、だから。

龍の谷を越えるまで、ゴロー太は、話しかける。
それが、走り続けたい理由のひとつ。
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