第84話 七つの風

文字数 1,017文字

ゴロー太は、信じることしか知らない風と出会う。
その身を傷つけながら、疑うことを拒み続けた。
どんなことも、受け入れてきたのだから、
必ず叶う、夢の鍵を持っているから、いつでも、どんな時でも
笑顔でいられた。
それを望んだから、それを望むから、いつまでも終わらない。
沈まない太陽が、どこかに在るのだろうと、信じ続けた。
そんな風に安らぎを感じてしまった。

悪魔の囁きのような風は強気で、恐れることを知らない。
奪われること、奪うこと、隠しきれない心は見透かされ、
ゴロー太を迷わせる。
風が吹くたび、両手を拡げて叫ぶ、
信じられるもの、信じたいもの、
それは、たったひとつだけあれば十分だと思った。
だから、たくさんの言葉を捨てた。
そうしていれば、ひとつだけ、残るはずだった。

何も知らない風は無口だった。
伝えたい気持ちで溢れても、満たされない心が、いつしか風を無口にする。
ゴロー太もまた、多くの言葉を持たない。
触れていたい気持ちで溢れても、震える手が、いつしか風を臆病にする。
何度も振り返っては、消えてしまいそうな足跡を探した。
どんなに時が経っても忘れない。
そう思っていた。
だから、自分のことは何も話さなかった。

希望の風はいつも突然現れては、瞬く早さで去って行く。
いつもゴロー太は置いて行かれる。
何度も同じことを繰り返し、
何度も同じ場所を訪れ、
軌跡を拾い集めると、何も持っていないことに、気がついてしまった。
希望の風は、いつも突然向きを変える。
それでも疑うことができないのは、いつも優しく問い掛けてくるから。

虹ってる風は届かない。遙か空の上で、夕日を連れてやってくる。
誰の思いも受け止めては輝き、惹きつける言葉を話す。
ゴロー太も、ひとつになれたらと思う。
終わらない物語は、結末を知らない。
止まない雨は、明日を知らない。
空に輝くのは、越えられないことだと思っていた。
それでも雲は、虹の向こうに在ることを知った。

砂の風がくると、全てが止まったように、何も起こらない。
ただ、そこに居ただけだ。
永い時間が過ぎた。
離れてしまった記憶が戻らない。
何も起こらなかった。
何も起きなかった。
そして、何も見えなかった。

駆け上る風が、また巡ってくる。
南風。めぐる季節の中、
何度も訪れた思いが吹いてくる。
小さなゴロー太を巻き込んでも、行き先を教えない。
ただ、あるがままでいるように。
どこまでも続くわけもなく、いつまでも居られない。
それでも時折、見上げたくなる。
それが最後に残った思い。
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