第89話 大地の風

文字数 256文字

大地の風に吹かれたら、きっと思う。
この風はどこを彷徨ってきたのだろう。
誰もいない草原、雲だけがたゆたう世界で、
冷たい夜を過ごし、渇いた岩肌にふれながら、
時折遭遇する優しさに安堵するのだろうか。

方角さえ分からなくなりそうな地平線に囲まれ、
まるで時が止まったような気がするかもしれない。
でも、時の流れさえ、たいして意味を持っていない。
目印がなくたって、誰も迷ったりしない。
それは、もう感じることができなかった感覚が
教えてくれるのかもしれない。

風が囁く言葉に耳を傾ければ、忘れていたことを、
思い出させてくれる。何度も。
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