第54話 絵の猫

文字数 307文字

橋を渡り始めた頃にいた沢山の人達は、
足が進むにつれ疎らになり、
そして今、誰も見えなくなった。
退屈しのぎに鼻歌でも鳴らしてしたが、それも飽きてしまった。
どこまで歩いても変わらない風景。
時折聞こえる鋼の軋む音だけが、現実を告げていた。
そんな時、ゴロー太は思い出す。あの家のこと。

その家の主は、ひとりぼっちだった。
毎日、壁に掛けてある猫の絵を見ていた。
じっと見つめては何かを思うでもなく、
ただ、目を向けていた。
主は猫が嫌いだ。それなのに、その絵を何度もよく見ていた。
主の感心は、絵そのものだと後でわかった。
深く、深く息をすると、ずっと遠い日々を感じる。
それが錯覚でも、そう感じることが大切らしい。

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