Battle of Color holder(3)

文字数 2,164文字

◇有色者の宿命◇

「クルクマ、クルクマ」
「ん……」
 揺り起こされ、ベッドの上で目を覚ますクルクマ。一瞬、ここはどこだったかと考えて思い出す。村だ、ココノ村。窓から差し込む光を見るに、まだ昼前らしい。
「無事帰って来られたか。あ~、あんまり寝た気がしない」
「そりゃ、こっちでは数分の出来事だもの」
「ああ、そっか。そうだっけ。あんだけの戦いをしてそれって、なんか納得いかないな」
「お疲れ様でした」
「スズちゃんもね」
 むしろ自分よりスズランの方が大変だったろう。こっちはアバターを使った旅だったがスズランは生身で向こうへ渡ったのだ。ひょっとすると六柱の力を借りる必要があるかもしれないと言って。アバターでの跳躍の場合、彼女達は連れて行けないらしい。
 予感は的中。流石にあれは六柱のサポート無しでは厳しい相手だった。
「敵が、え~と……なんだっけ?」
上位者(スーペリア)
「ああ、そうそう。それだってわかってたの?」
「雨龍さんから聞いた特徴で、多分そうだとは思ってたわ」
『お役に立てて幸いッス』
 気が付くと二人の眼前にAIメイドのレインが立っていた。声は彼女が掲げた右手の上、小さなウインドウから。浮草 雨龍の顔が映し出されている。
『どうでしたクルクマさん? 有色者としての初ヘルプ』
「大変だね。こんなことしょっちゅうやらされんの?」
『そう多くはないと思います。そちらは時間の流れも速いし、せいぜい数年に一回あるかないかじゃないッスかね。そもそも、まだ≪二色≫でしょ?』
「ああ、そうか」
 時間の流れる速度の差。そして力の大きさによって課される責任の重さの違い。それを失念していた。
『ただ、あの、言いにくいことなんスけどスズちゃん』
「どうぞ」
 だいたい予想はついている。だからスズランは迷わず先を促す。
 雨龍はなおもためらいがちに告げた。
『やっぱり、スズちゃんは≪一色≫じゃないですね。ネットワーク的には≪七色≫で判定されてます。条件付きって注釈があるけど』
「でしょうね」
 ミナ達の力を借りる形とはいえ、始原の力を全種扱えるのだから仕方がない。
 そして、それはこういう意味でもある。
『だからその、スズちゃんには、これからも頻繁に手伝ってもらうと思います』
「ええ」
 他の≪七色≫達もそうらしい。堕天の獣のような強大な脅威に対抗するには彼等を頼る以外にない。だから≪二色≫のクルクマに比べ、ずっと多くの協力要請が舞い込む。
「もっとも、これからは多少の余裕もできるでしょう」
『だと思います。スズちゃんのおかげで聖母魔族とコンタクトが取れたんで』
「元々彼等は貴方と似たようなことをしています、遠慮無く頼りなさい。ただし、対価は求められるでしょうが」
 現在の聖母魔族はいわば巨大な傭兵団。頼まれればその圧倒的な武力を貸し与え問題を解決してくれる。
『金……じゃないッスよね?』
「複数の世界で共通して使われる通貨というものもありますが、違いますね」
 彼等の場合、個々に欲するものが異なる。だから用意できる対価によって派遣してもらえる相手も変わるだろう。
「まあ、困ったら相談してください。私はもう彼等の王ではありませんが、それでも意見くらい聞いてくれるはず」
『はい、その時にはよろしくお願いします。でも、なるべくスズちゃんには面倒な仕事を回さないようにしますんで』
「お気遣い、ありがとう」

 レインの手の平のウインドウが消え、通信が切れたことを示す。

『それでも──』
「スズちゃんの力が必要な時は必ず来る。ですよね、レインさん?」
『はい』
 ベッドから下りて立ち上がるクルクマ。頷くレイン。
 クルクマはからかうような笑みをスズランに向ける。
「もちろんあーしも、その時にゃまた手伝うよ。まさか来るなとは言うまいね?」
「言いません」
 今のところ同じ有色者として責任を背負っているのは、この世界ではクルクマだけ。
 でなくとも彼女と自分は親友だ。一人で危地に飛び込むなどと言ったら怒られてしまう。かつて自分がそうしたように。
「頼りにしてますわ、相棒」
「おっ、いいねその響き。相棒か、そういうのも悪くないな」
『ふふ、お二人は本当に仲がよろしい。今、どちらも同じことを思っておられますよ』
「あら」
「おや」
 レインの言葉で顔を見合わせ、二人は同時に吹き出す。
 そして声を唱和させた。

「「お腹空いた」」

「下りましょう」
「そうだね、そろそろお昼時だ。ミナちゃん達も出て来な。一仕事した後の打ち上げだし、今日はあーしがおごる」
「本当!?
 スズランの胸から飛び出すミナ。他の六柱の影も次々実体化する。
 大人になったスズランという容貌のユカリはクルクマの肩に腕を絡めた。
「お酒もいい?」
「どうぞ。でも、またスズちゃんに飲ませるのだけは勘弁してくださいよ」
「わかってる。身体はまだ子供だもんね」
 そう言ってこの女史は、先日スズランに葡萄酒を飲ませ酔っ払わせたのである。今回はきちんと見張っていないと。
「なにはともあれ」
「宴会だ!」
 ミナが真っ先に部屋から飛び出し、スズラン達も後に続いて──この日、宿屋ケンエン亭では真っ昼間から有色者と神様達が飲めや歌えの大騒ぎをしていたと、しばらく話題になった。

 新世界の法則では、強き者達に責任が課される。
 けれど強すぎると、それも深刻な話ではないのかもしれない。
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登場人物紹介

 ヒメツル。薄桃色の髪で海を思わせる青い瞳。人々から「最悪の魔女」と呼ばれる十七歳の少女。世界最強の魔力を有し、その回復力も尋常でなく実質的に無限。才能には恵まれているが、師を持たず独学で魔法を使っており初歩的な失敗をすることも多い。十二歳前後から頭角を現し始めた。それ以前にどこで何をしていたかは謎。大陸南部の出身だという噂はある。

 ただでさえ美貌に恵まれているのに、それに魅了の魔法まで加えて馬鹿な金持ちを騙し、資産を巻き上げて贅沢な暮らしをしている。魔法使いの森の中に鎮座する喋って動いて家事万能の巨大なカエデの木「モミジ」が住み家。

 自由を愛し、宗教が嫌い。聖都シブヤで三柱教の総本山メイジ大聖堂に放火。全焼させて教皇以下の信徒達を激怒させ、討伐に向かった聖騎士団も悪知恵で撃退。以後は超高額の懸賞金をかけられ賞金首となるも、忽然と姿を消す。

 スズラン。生まれつきの白髪で青い瞳。最初は老人のような自分の髪を嫌っていたが、何故か反射光が虹色になると気が付いてからはお気に入り。

 ココノ村の雑貨屋の一人娘。ただし両親との血の繋がりは無い。赤ん坊の時、隣の宿屋の長男が生まれた夜、何者かによって彼の隣に置き去りにされた。その後、子供ができず悩んでいた隣家の夫婦に引き取られる。

 周囲には隠しているが強大な魔力の持ち主で魔法も使える。大人顔負けの知識まで数多く有しており、幼少期から神童と呼ばれる。

 両親の代わりに接客をしたり、服や小物を作って店に並べたりも。今や「しっかり者のスズランちゃん」の名は近隣の村々にまで知れ渡った。

 成長するにつれ賞金首の「最悪の魔女」そっくりになりつつある。村民達は薄々実母の正体を悟りつつ、彼女の幸せを願い、気付かないふりをしている。外部の人間と会う時は周囲の認識を阻害してくれるメガネをかける。友達の魔女から貰った。

 幼馴染のモモハルは自分の天敵だと思っている。だが、その割にはかいがいしく世話をする。周囲は二人が結ばれることを期待中。彼の妹のノイチゴは実の妹のように可愛い。

 モモハル。スズランがココノ村に置き去りにされる直前、宿屋の二階で生まれた少年。宿を経営する若夫婦の跡取り息子。後に妹も生まれる。プラチナブロンドで空色の瞳。母親似の顔立ちで中性的な美形。でも性格は完全に父親似。一途で尻に敷かれるタイプ。

 スズランとは姉弟同然の間柄だが当人は〇歳から異性としての彼女が好き。ある意味とてつもなくマセている。両親も妹も村の皆も大好きだけれど、一番好きなのは絶対的にスズラン。

 実はとんでもない能力を秘めており、育ち方次第では世界を滅ぼしてしまいかねない。その力のせいでスズランからは天敵と認識されている。天真爛漫だが人を驚かすのも好きないたずらっ子。

 スズランの心配をよそに、子供に大人気の絵本「ゆうしゃサボテンシリーズ」を読んでヒーローへの憧れを抱いてしまう。

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