Battle of Color holder(3)
文字数 2,164文字
「クルクマ、クルクマ」
「ん……」
揺り起こされ、ベッドの上で目を覚ますクルクマ。一瞬、ここはどこだったかと考えて思い出す。村だ、ココノ村。窓から差し込む光を見るに、まだ昼前らしい。
「無事帰って来られたか。あ~、あんまり寝た気がしない」
「そりゃ、こっちでは数分の出来事だもの」
「ああ、そっか。そうだっけ。あんだけの戦いをしてそれって、なんか納得いかないな」
「お疲れ様でした」
「スズちゃんもね」
むしろ自分よりスズランの方が大変だったろう。こっちはアバターを使った旅だったがスズランは生身で向こうへ渡ったのだ。ひょっとすると六柱の力を借りる必要があるかもしれないと言って。アバターでの跳躍の場合、彼女達は連れて行けないらしい。
予感は的中。流石にあれは六柱のサポート無しでは厳しい相手だった。
「敵が、え~と……なんだっけ?」
「
「ああ、そうそう。それだってわかってたの?」
「雨龍さんから聞いた特徴で、多分そうだとは思ってたわ」
『お役に立てて幸いッス』
気が付くと二人の眼前にAIメイドのレインが立っていた。声は彼女が掲げた右手の上、小さなウインドウから。浮草 雨龍の顔が映し出されている。
『どうでしたクルクマさん? 有色者としての初ヘルプ』
「大変だね。こんなことしょっちゅうやらされんの?」
『そう多くはないと思います。そちらは時間の流れも速いし、せいぜい数年に一回あるかないかじゃないッスかね。そもそも、まだ≪二色≫でしょ?』
「ああ、そうか」
時間の流れる速度の差。そして力の大きさによって課される責任の重さの違い。それを失念していた。
『ただ、あの、言いにくいことなんスけどスズちゃん』
「どうぞ」
だいたい予想はついている。だからスズランは迷わず先を促す。
雨龍はなおもためらいがちに告げた。
『やっぱり、スズちゃんは≪一色≫じゃないですね。ネットワーク的には≪七色≫で判定されてます。条件付きって注釈があるけど』
「でしょうね」
ミナ達の力を借りる形とはいえ、始原の力を全種扱えるのだから仕方がない。
そして、それはこういう意味でもある。
『だからその、スズちゃんには、これからも頻繁に手伝ってもらうと思います』
「ええ」
他の≪七色≫達もそうらしい。堕天の獣のような強大な脅威に対抗するには彼等を頼る以外にない。だから≪二色≫のクルクマに比べ、ずっと多くの協力要請が舞い込む。
「もっとも、これからは多少の余裕もできるでしょう」
『だと思います。スズちゃんのおかげで聖母魔族とコンタクトが取れたんで』
「元々彼等は貴方と似たようなことをしています、遠慮無く頼りなさい。ただし、対価は求められるでしょうが」
現在の聖母魔族はいわば巨大な傭兵団。頼まれればその圧倒的な武力を貸し与え問題を解決してくれる。
『金……じゃないッスよね?』
「複数の世界で共通して使われる通貨というものもありますが、違いますね」
彼等の場合、個々に欲するものが異なる。だから用意できる対価によって派遣してもらえる相手も変わるだろう。
「まあ、困ったら相談してください。私はもう彼等の王ではありませんが、それでも意見くらい聞いてくれるはず」
『はい、その時にはよろしくお願いします。でも、なるべくスズちゃんには面倒な仕事を回さないようにしますんで』
「お気遣い、ありがとう」
レインの手の平のウインドウが消え、通信が切れたことを示す。
『それでも──』
「スズちゃんの力が必要な時は必ず来る。ですよね、レインさん?」
『はい』
ベッドから下りて立ち上がるクルクマ。頷くレイン。
クルクマはからかうような笑みをスズランに向ける。
「もちろんあーしも、その時にゃまた手伝うよ。まさか来るなとは言うまいね?」
「言いません」
今のところ同じ有色者として責任を背負っているのは、この世界ではクルクマだけ。
でなくとも彼女と自分は親友だ。一人で危地に飛び込むなどと言ったら怒られてしまう。かつて自分がそうしたように。
「頼りにしてますわ、相棒」
「おっ、いいねその響き。相棒か、そういうのも悪くないな」
『ふふ、お二人は本当に仲がよろしい。今、どちらも同じことを思っておられますよ』
「あら」
「おや」
レインの言葉で顔を見合わせ、二人は同時に吹き出す。
そして声を唱和させた。
「「お腹空いた」」
「下りましょう」
「そうだね、そろそろお昼時だ。ミナちゃん達も出て来な。一仕事した後の打ち上げだし、今日はあーしがおごる」
「本当!?」
スズランの胸から飛び出すミナ。他の六柱の影も次々実体化する。
大人になったスズランという容貌のユカリはクルクマの肩に腕を絡めた。
「お酒もいい?」
「どうぞ。でも、またスズちゃんに飲ませるのだけは勘弁してくださいよ」
「わかってる。身体はまだ子供だもんね」
そう言ってこの女史は、先日スズランに葡萄酒を飲ませ酔っ払わせたのである。今回はきちんと見張っていないと。
「なにはともあれ」
「宴会だ!」
ミナが真っ先に部屋から飛び出し、スズラン達も後に続いて──この日、宿屋ケンエン亭では真っ昼間から有色者と神様達が飲めや歌えの大騒ぎをしていたと、しばらく話題になった。
新世界の法則では、強き者達に責任が課される。
けれど強すぎると、それも深刻な話ではないのかもしれない。