Celebrate the new chapter(B15)

文字数 931文字

◇待ちぼうけ◇

 今日も来なかった。ココノ村の皆がラクシュロクの夜を楽しみ眠りについた後、王城にいるスズランも寝台で横になった。
「では、おやすみなさいませスズラン様」
「ええ、おやすみなさいイヌセさん」
 城で働くイヌセの一人と挨拶を交わし、瞼を閉じる。すると脳内でも声が。
【おやすみママ】
『おやすみなさいませ、スズラン様』
(おやすみ、ミナ。おやすみなさい、レインさん)
 今日も一日が終わる。けれど重大な出来事は何も起こらなかった。
 やはり明日か。
(結婚式当日ね。できれば昨日か今日であってほしかったけれど)
 明日、式が終わり次第に村へ帰るつもりでいる。特異点が四人も同じ場に留まり続けるべきではない。
 自分とゲルニカとディル。そして自分に対する特異点のモモハル。この四人が一堂に会することになった以上、いつ、何が起きるかわからなかった。対応するには少しでも可能性を絞り込んでおいた方がいい。だから旅程は三日間。結婚式当日だけなら確実にその日にできたとも思うが、村の皆を同行させて近くで守ると決めたことで、そのための準備も必要になった。
 衛兵隊の皆は二日間の慣熟訓練で新装備に慣れてくれたし、他の戦闘要員も十分に英気を養うことができた。これなら万全の体制で明日に臨める。
 それでも一つだけ気がかりがあるとするなら──

(今日も来なかったわね)

 オリジナルのミナ。この世界に来ているという少女。マリアの愛娘の転生体。
 一目でいいから会いたい。本心ではそう願っている。けれど当人がそれを望まない限り、こちらから会いに行くわけにもいかない。

 自分達は殺し合いをしていた。
 千年前まで続けていたあの戦いで、家族同士が互いに互いを殺そうと躍起になっていた。
 たとえそれが相手を想うがゆえの闘争だったとしても、やはり簡単に割り切れる話ではない。
 六柱の影と接触したことで、こちらはすでに結論を出せた。けれどミナにはまだ考える時間が必要だ。だから自分は黙って待つ。そう決めた。
 もちろん期待はしている。

(明日が因果の集束する時なら──何かが起きるというなら……会いに来てミナ。ママは、その時を待っているのよ)



「……ママ」
「……」
 今夜もまた、少女は少年と肩を並べ、星空を見上げ続ける。
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登場人物紹介

 ヒメツル。薄桃色の髪で海を思わせる青い瞳。人々から「最悪の魔女」と呼ばれる十七歳の少女。世界最強の魔力を有し、その回復力も尋常でなく実質的に無限。才能には恵まれているが、師を持たず独学で魔法を使っており初歩的な失敗をすることも多い。十二歳前後から頭角を現し始めた。それ以前にどこで何をしていたかは謎。大陸南部の出身だという噂はある。

 ただでさえ美貌に恵まれているのに、それに魅了の魔法まで加えて馬鹿な金持ちを騙し、資産を巻き上げて贅沢な暮らしをしている。魔法使いの森の中に鎮座する喋って動いて家事万能の巨大なカエデの木「モミジ」が住み家。

 自由を愛し、宗教が嫌い。聖都シブヤで三柱教の総本山メイジ大聖堂に放火。全焼させて教皇以下の信徒達を激怒させ、討伐に向かった聖騎士団も悪知恵で撃退。以後は超高額の懸賞金をかけられ賞金首となるも、忽然と姿を消す。

 スズラン。生まれつきの白髪で青い瞳。最初は老人のような自分の髪を嫌っていたが、何故か反射光が虹色になると気が付いてからはお気に入り。

 ココノ村の雑貨屋の一人娘。ただし両親との血の繋がりは無い。赤ん坊の時、隣の宿屋の長男が生まれた夜、何者かによって彼の隣に置き去りにされた。その後、子供ができず悩んでいた隣家の夫婦に引き取られる。

 周囲には隠しているが強大な魔力の持ち主で魔法も使える。大人顔負けの知識まで数多く有しており、幼少期から神童と呼ばれる。

 両親の代わりに接客をしたり、服や小物を作って店に並べたりも。今や「しっかり者のスズランちゃん」の名は近隣の村々にまで知れ渡った。

 成長するにつれ賞金首の「最悪の魔女」そっくりになりつつある。村民達は薄々実母の正体を悟りつつ、彼女の幸せを願い、気付かないふりをしている。外部の人間と会う時は周囲の認識を阻害してくれるメガネをかける。友達の魔女から貰った。

 幼馴染のモモハルは自分の天敵だと思っている。だが、その割にはかいがいしく世話をする。周囲は二人が結ばれることを期待中。彼の妹のノイチゴは実の妹のように可愛い。

 モモハル。スズランがココノ村に置き去りにされる直前、宿屋の二階で生まれた少年。宿を経営する若夫婦の跡取り息子。後に妹も生まれる。プラチナブロンドで空色の瞳。母親似の顔立ちで中性的な美形。でも性格は完全に父親似。一途で尻に敷かれるタイプ。

 スズランとは姉弟同然の間柄だが当人は〇歳から異性としての彼女が好き。ある意味とてつもなくマセている。両親も妹も村の皆も大好きだけれど、一番好きなのは絶対的にスズラン。

 実はとんでもない能力を秘めており、育ち方次第では世界を滅ぼしてしまいかねない。その力のせいでスズランからは天敵と認識されている。天真爛漫だが人を驚かすのも好きないたずらっ子。

 スズランの心配をよそに、子供に大人気の絵本「ゆうしゃサボテンシリーズ」を読んでヒーローへの憧れを抱いてしまう。

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