Celebrate the new chapter(C05)

文字数 3,813文字

◇一番弟子◇

 大空と大地を自在に駆け巡り、時には転移を行って膨大な数の敵と互角以上に渡り合い押し返していく魔王達。魔眼の剣士達の支援のおかげで形成は完全に逆転した。
「流石はミツルギ様!」
「ココノ村の天使の少年も、なかなかやる!」
『十番隊、左翼からの敵を叩け! ディル様に近付かせるな!』
「了解!」
「リィン・バーキン! 魔王呪法を使う!」
「おっと巻き込まれるな、退がれ」

 魔王の一人が凄まじい魔力を圧縮して魔法を放つ。青い光が視界一杯の敵を飲み込んだかと思うと、動きを封じ込め、ミツルギとモモハルが示してくれた障壁、ダミー生成装置、本体の核の三つに的確に圧をかけて一気に砕いた。
 術者の魔法は呼吸を乱す。

「ぶはっ! ぜえ、ぜえ……」
「この馬鹿、こんなに早く大技ぶっぱなしやがって!」
「無理するな、後方に下がって回復して来い!」
「そうする」
 今しがた彼が使った“魔王呪法”とは、かつてマリアが生み出した術のこと。スズランのソルク・ラサと同じでソースコードを用いて万物の礎である夏流 賢介の意識に干渉し、理そのものを新しく追加した強力無比な魔法。
 ただ、その魔力消費も凄まじく、彼等のように“魔王”と呼ばれるほどの力の持ち主であっても乱発はできない。
 一部の例外を除いて。



「くうっ!?
 ミツルギと兄の支援により敵の弱点が見えるようになった。おかげで友軍は状況を有利に立て直しつつある。
 けれどノイチゴは悔しかった。兄は活躍しているのに、自分達はまだこの戦場において何の役にも立てていない。

「我が眼前の敵を貫け」「白華の雷!」

 重奏魔法に彼女が独自の解釈を加え、師スズランによって“枢楽魔法”と名付けられた技。それによって大きく威力を増した雷光が敵に迫る。
 ところが弱点を貫くどころか、その一撃は容易く回避されてしまった。まただと地団駄を踏む彼女。
「ぜんぜん当たらないよ!」
「どうしてみんな、あんな素早く動き回る敵に当てられるの!?
 ヒルガオも苦戦中。彼女が次々に繰り出す術も全く敵に命中しない。せっかくイヌセとマッシュが魔力障壁を展開して守ってくれているのに、攻撃役の自分達がこの有り様では申し訳ない。
「無理するなノイチゴ! まだお前らは初心者みてえなもんだろ!」
「そうだ、大人しくしとけ!」
 二人の父が少女達を諭すも、彼女達はやはり納得しなかった。
「もう初心者じゃない!」
「そうだよ、こんな時に戦えないで、なんのためにスズねえの弟子になったのさ!」
「そうだそうだ!」
 三人目の弟子フリージアも同調する。彼女もまた魔法で生み出した水流を操り、攻撃を続けている。流石に南大陸にいた頃から戦闘訓練を受けていただけあってノイチゴ達より戦い方に習熟しており、たまには攻撃が当たる。だが、やはり弱点を貫くことはできない。おかげで頭に血が上りっぱなしだ。短気な性格なのである。
「あんな変な鳥にやられっぱなしじゃいられないわ!」
 そして負けず嫌いでもある。
「そんなこと言ったって危ないわよ! シクラメン様もなんとか言ってください!」
「そうですよ!」
 ヒルガオの母トケイとコデマリにせっつかれ、こんな状況なのに寝台型魔力障壁の上でぐで~っとだらけているシクラメンは渋々口を開いた。
「働きたくない」
「それでも神子(みこ)ですか!?
「別に私が働かなくても勝てそうじゃない」
「よく見てください! スズラン様やゲルニカ様だってピンチですよ!」
「あの二人なら大丈夫。でも、まあ……」
 さっきから見ていて一言物申したかったことはある。彼女は本当に一言だけ幼い魔女達へアドバイスすることにした。

「もっと頭を使いなさい」
「へっ?」

 それだけ? 目をぱちぱちさせる一同の前で瞼を閉じ「食事時になったら起こして」と寝息を立て始める彼女。まさかと呼びかけてみるトケイ。
「あ、あの……シクラメン様?」
「すー……すー……」
「駄目です、本当に眠ってしまわれました」
 彼女の性格を最もよく知るコデマリが断言。これは狸寝入りではない。クロマツは絶叫した。
「いくらなんでも自由過ぎるじゃろ!?
「それがシクラメン様なのです」
「ああもう、ぐーたらもの!」
 結局貰えたのは大雑把すぎるアドバイスだけ。頭を使えとだけ言われても、どうしたらいいのやら。悩むノイチゴとヒルガオの頭上でフリージアが突如手を打つ。
「そうだ!」
 彼女はさらに多くの水を生み出した。さらに母にも協力を求める。
「ママ、手伝って!」
「何をする気!?
 訝りつつも素直に手を貸すユリオプス。母子で呼吸を合わせて膨大な水を操り、イヌセとマッシュが展開した障壁の外で渦巻かせる。
「そうか!」
 納得するノイチゴ。あの水の壁を潜って来れば敵の飛行速度は鈍る。
 しかし──
「な、なんだ!?
「敵がよく見えない! やめろフリージア君!」
 衛兵隊から叱責を浴びた。たしかに水によって多少敵の動きは鈍ったが、同時に視界の妨げになってしまい、どこから飛んで来るのかがわからない。
「ぎゃあああああああああああああああああっ、ヒビが入って来たぞ!」
「やめんかフリージア!」
「ちょっ、やばっ!?
「まずいであります!」
 衛兵隊の魔力の矢による迎撃が間に合わなくなり、次々に敵の攻撃が命中する。陸戦型の巨獣まで前に出て戦っていたノコン達の間をすり抜け障壁にとりついてしまった。どんどん耐久力が削られマタンゴコンビの魔力で支えられる限界に近付く。フリージアとユリオプスは慌てて水流の壁を弾けさせた。
 時すでに遅く、ついに障壁は砕け散ってしまう。
「きゃあああああああああああああああああああああああっ!?
「おねえちゃああああああああああああああん!」

 響き渡る悲鳴。
 けれど、誰一人傷付けられはしなかった。

「え? あれ?」
「別の障壁……?」
「助かったです!」
 すかさず障壁を再展開するマタンゴコンビ。何者かの魔力障壁が殺到した敵を弾き返し皆を守ってくれた。その障壁から感じる魔力は──
「シクラメン様!」
「……すー」
 相変わらず彼女は眠っている。けれど、こんなこともあろうかとあらかじめ保険となる術を仕込んでおいてくれたらしい。
「ね、眠りながら……流石は神子様じゃ」
「しかし、めちゃめちゃ敵が増えてきとるぞ!」
 こちらの動きから、ここにいるココノ村の住民達こそウィークポイントだと勘付かれてしまったのだろう。敵の攻撃が集中し始めている。これではマタンゴコンビとシクラメンの障壁で守られていても安心できない。
 結界外で戦っているモモハル達も衛兵隊も全力で迎撃を続けている。だとしてもいかんせん敵の数が多すぎだ。やはりもっと火力が欲しい。
(なんとかしなきゃ……!)
 再び焦るノイチゴ。師のスズランはもっと強大な兵器と一人で戦っている最中。弟子の自分達が不在の穴を埋めなくてどうする。
 でも、どうしたら──考えがまとまらない。そんな彼女達の元へ、一人の男がゆっくり近付いて来た。

「まったく、見ていられん」

 あからさまに不機嫌な声。振り返ると赤い髪と豊かなヒゲの大柄な老人がシワ一つ無く整えられた法衣姿で立っている。
 彼の名前は晩餐会の時に教えられた。何者であるかと同時に。
「エンディワズさん……?」
「左様。諸君らと同じ、初代陛下の愛弟子だ」



 エンディワズは不服だった。ココノ村の子供の中にスズランの弟子がいると聞き、この機に実力を確かめに来たというのに、なんたる体たらく。本当にこんな少女達があの聡明な師の教え子なのか?
(まあ、才はあるが)

 少しばかり観察してみたところ、最年長だという少女は師と同じでセンスが良い。直感で正解を導き出すタイプ。それでいて魔力制御も上手い。目立つ欠点は出力最大値が低いことくらいか。それと胆力にも乏しい。明らかに腰が引けている。勇気は魔法を使う上で重要な要素だというのに。
 もう一人の人間の少女は理詰めでなければ魔法を使えないタイプ。自分に似ていて共感を覚える。魔力は先の少女より多少強い。無論彼から見れば誤差のレベル。力の弱い術者がそれを補うためによくやる工夫をしっかり行っている。たしか師の話では独力で答えに辿り着いたということだった。つまり発想力に優れており、時に大胆な行動にも出られる度胸の持ち主。
 三人目、ウンディーネの少女は種族特性として強い魔力を保有。魔力制御の技術も一人目に負けないほど優秀。勝ち気で即断即決な性格も戦闘向き。だが、いかんせん三人の中で最も幼く想像力と経験に乏しい。短気なのも欠点。
 いずれも磨けば光る珠だろう。なるほど、師は彼女達を時間をかけて丹念に育て上げるつもりに違いない。だからまだこの程度なのだと彼は勝手に納得した。
 そんな師の教育方針に背くつもりは無い。とはいえ妹弟子が揃いも揃ってこの程度では彼女の名誉に傷が付く。彼にはそれが許せなかった。

 ──視線を結界外で戦う少年に移す。師の想い人かもしれないという眼神の加護を持つ若者。ミツルギから教えを受けたことで、今や獅子奮迅の活躍中。彼とミツルギの支援があればこそ戦況は好転した。ミツルギは別の戦域へ転移したが、それでもあの少年は自力で襲い来る兵器達を倒し続けている。まだ未熟だが年齢を考えれば大したもの。

「フン……」
 やはり自分もそうすべきか。後進に道を示すは先達の役目。師の教育方針の妨げにならない程度に未熟な者達を指導してやろう。
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登場人物紹介

 ヒメツル。薄桃色の髪で海を思わせる青い瞳。人々から「最悪の魔女」と呼ばれる十七歳の少女。世界最強の魔力を有し、その回復力も尋常でなく実質的に無限。才能には恵まれているが、師を持たず独学で魔法を使っており初歩的な失敗をすることも多い。十二歳前後から頭角を現し始めた。それ以前にどこで何をしていたかは謎。大陸南部の出身だという噂はある。

 ただでさえ美貌に恵まれているのに、それに魅了の魔法まで加えて馬鹿な金持ちを騙し、資産を巻き上げて贅沢な暮らしをしている。魔法使いの森の中に鎮座する喋って動いて家事万能の巨大なカエデの木「モミジ」が住み家。

 自由を愛し、宗教が嫌い。聖都シブヤで三柱教の総本山メイジ大聖堂に放火。全焼させて教皇以下の信徒達を激怒させ、討伐に向かった聖騎士団も悪知恵で撃退。以後は超高額の懸賞金をかけられ賞金首となるも、忽然と姿を消す。

 スズラン。生まれつきの白髪で青い瞳。最初は老人のような自分の髪を嫌っていたが、何故か反射光が虹色になると気が付いてからはお気に入り。

 ココノ村の雑貨屋の一人娘。ただし両親との血の繋がりは無い。赤ん坊の時、隣の宿屋の長男が生まれた夜、何者かによって彼の隣に置き去りにされた。その後、子供ができず悩んでいた隣家の夫婦に引き取られる。

 周囲には隠しているが強大な魔力の持ち主で魔法も使える。大人顔負けの知識まで数多く有しており、幼少期から神童と呼ばれる。

 両親の代わりに接客をしたり、服や小物を作って店に並べたりも。今や「しっかり者のスズランちゃん」の名は近隣の村々にまで知れ渡った。

 成長するにつれ賞金首の「最悪の魔女」そっくりになりつつある。村民達は薄々実母の正体を悟りつつ、彼女の幸せを願い、気付かないふりをしている。外部の人間と会う時は周囲の認識を阻害してくれるメガネをかける。友達の魔女から貰った。

 幼馴染のモモハルは自分の天敵だと思っている。だが、その割にはかいがいしく世話をする。周囲は二人が結ばれることを期待中。彼の妹のノイチゴは実の妹のように可愛い。

 モモハル。スズランがココノ村に置き去りにされる直前、宿屋の二階で生まれた少年。宿を経営する若夫婦の跡取り息子。後に妹も生まれる。プラチナブロンドで空色の瞳。母親似の顔立ちで中性的な美形。でも性格は完全に父親似。一途で尻に敷かれるタイプ。

 スズランとは姉弟同然の間柄だが当人は〇歳から異性としての彼女が好き。ある意味とてつもなくマセている。両親も妹も村の皆も大好きだけれど、一番好きなのは絶対的にスズラン。

 実はとんでもない能力を秘めており、育ち方次第では世界を滅ぼしてしまいかねない。その力のせいでスズランからは天敵と認識されている。天真爛漫だが人を驚かすのも好きないたずらっ子。

 スズランの心配をよそに、子供に大人気の絵本「ゆうしゃサボテンシリーズ」を読んでヒーローへの憧れを抱いてしまう。

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