Celebrate the new chapter(C04)

文字数 2,551文字

「行きます」
 ミツルギの繰り出した刃は根元から空間の歪みに吸い込まれ、遠く離れた標的に致命傷を与えた。空間操作と剣術の合わせ技。それで空中の敵を次々に刺突し撃墜して挑発する。敵は予想通り、彼女を脅威目標と見定め殺到してきた。

 数体に接近された瞬間、再び剣を振るう。
 そこでようやくモモハルも気付く。

「あっ!?
 さっきミツルギが言ったように彼には“核”が見えている。そこさえ破壊すればどんな敵でも倒せる一点。この小型兵器達の深度はさほど深くない。少なくともミナ達六柱の影よりずっと浅い領域だ。だから最初は簡単に倒せると思った。若手の魔王達が戸惑ったのも同じ理由。
 しかしそれは欺瞞である。ミツルギ達は知っていた。過去にも同じことをした敵が複数いたから。彼女やモモハルのような能力者に見えている“核”はダミー。本物はより深い別の領域に存在する。

 対処法は複数。

「はあああああああああああああああああああああああああああああっ!!
 魔王の一人が数え切れない魔力弾を生み出し、複数の敵が固まっている位置へ間断無く降り注がせた。つまりは飽和攻撃。ダミーがあろうとなかろうと、あれならそのうちどれかが核を破壊できる。
 別の魔王は弓を構えて矢を放つ。放たれた閃光は何度も何度も同じ敵を貫いた。やがて爆散したそれから視線を外して別の敵へ。これも本物の核に当たるまで攻撃を続ける単純な対処法。
 どちらも効率が悪い。彼女ならこうする。
 目にも留まらぬ早業で切り裂いたのは、ダミーでも本物の核でもなくダミーを生み出す装置。
 途端、モモハルの目にも本物の核が映る。それが返す刃で貫かれた瞬間、彼女に迫っていた機械兵全てが爆散した。
「やった!」
「ただ眼前にあるものを見るのではなく、状況に応じて意識を切り替えなさい。君の眼はその願いに応えてくれるはずです」
 教えを授けつつ、後続の敵に備えるミツルギ。モモハル達の喜びも束の間、またしても戦況が変化する。城の壁を砕き、地響きを立てて迫って来る巨影。
「新手かよ!?
 今度は猛獣だ。これまでの機械兵とは異なる牛のようなデザインの四足歩行型。サイズもゲルニカ達と戦っている人型の倍はある。ゼラニウムが振動障壁を放って攻撃するも分厚い装甲には傷一つ付かず、勢いを弱めることさえできない。
「こっちは単純にかてえ!」
「このっ!」
 モモハルはミツルギの期待通り、一度見ただけで彼女の技を覚えた。存在の根源を破壊してしまえばどんなに頑丈でも関係無い。だから、まずは偽の核を作り出す装置の位置を見抜いて攻撃を仕掛ける。
 ところがゼラニウム同様、彼の剣も装甲の硬さに阻まれてしまった。想像以上の強度に刃が立たず、剣ごと弾き返される。
「うあっ!?
「モモハルさん!」
 危うく轢き殺されそうになった彼を魔力糸で救うロウバイ。
 彼女の横まで移動したモモハルは歯噛みする。
「どうしたら……!」
「ならば次は、これを覚えなさい」
 入れ替わりに前へ出るミツルギ。なるほど、この獣は関節部まで含め極めて頑強な構造となっている。これを真っ向から打ち破るのは骨が折れるだろう。
 しかし幸いにも彼女にはこれがある。
「力を示せ──センリ!」

 センリの魔眼。旧世界の地球を模した惑星で生まれ、日本人として育った彼女が故郷の運命を左右する特異点と化した元凶。聖母魔族の魔王の一人になった理由。
 この眼には≪情報≫神ユカリ・ウィンゲイトの加護が与えられている。遠い祖先に彼女に仕えた天使がいたのだ。その力が隔世遺伝で彼女に宿った。
 紫に輝いた瞳の中心に青い光も灯る。紆余曲折を経て聖母魔族の一員となった時、敵であるユカリに能力を剥奪されないようマリアからも加護を与えられた。だから彼女は今でいう情報と世界の≪二色≫の有色者。その力が敵の高い防御性能の秘密を暴き出す。

(やはり、カロラクシュカ殿の造った鎧と同じ)
 単に装甲が厚いだけではない。表面に強力な障壁が常時展開されている。魔力障壁とは異なる仕組みのバリアで空間転移すら遮断される。だが、その存在を見破ると同時に彼女の眼は障壁の弱点までも看破した。なんにでも“核”は存在している。そうエネルギー壁でさえも。
 一閃。刃の切っ先が正確に一点へ吸い込まれ、障壁を破壊した。
 転移攻撃が可能になった瞬間、内部を直接攻撃してダミー生成装置を破壊する。そして剥き出しになった“核”を捉える魔眼。

「王手」

 彼女の最後の一撃は、すんなりそれを貫いた。敵は勢いのままイヌセとマッシュの展開する障壁へぶつかり、倒れ込んで沈黙する。
「す、すごい……」
 驚きっぱなしのモモハルに対し、まだだと教えるミツルギ。
「見なさい」
「フッ!」
「オラァ!」
 スイレンの剣と魔力糸が小型兵器のダミー生成装置を破壊し、ゼラニウムの振動障壁が複数の敵を巻き込んで本物の核を砕く。どうして? 自分達のようにそれらが見えているかのような鮮やかな手並み。
 ミツルギは種を明かす。
「見えているのです」
「えっ……」
「私は初代陛下からも加護を授かりました。今、その力を使って敵の弱点の情報を友軍に共有しています」
「助かります!」
 ロウバイの放った蒼炎の槍が魔力糸によって絡め取られた小型機械兵達の核を次々貫通して破壊する。牽制に徹していた衛兵隊も一転、次々に敵を撃破し始めた。
「うおおっ、倒せた!」
「この装備、元の世界に持って帰りてええええええええっ!」
「ナスねえに再現してもらうしかねえよ!」
 本当に見えている。ミツルギは、この広い戦場にいる仲間全員を神から授かった加護で強力に支援している。
「君にも同じことができます。君のその眼と願望実現能力でなら、私が見せたことは全て再現できるはずです」
「……はい!」
 やってみよう。発破をかけられたモモハルは剣をて構え目を凝らす。これまでどこかで自分の限界を決めつけてしまっていたとわかった。本当はまだまだ強くなれるのに。
「こっちは任せてスズ……」
 彼には当然、彼女の姿も見えている。あの人型兵器に単身で立ち向かい、苦戦している姿が。
 助けに行きたいが今の自分ではまだ邪魔になるだろう。だから、すべきことをする。
「ぜったい、守り抜いてみせる!」
 空色の青い瞳は、より強い輝きを放った。
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登場人物紹介

 ヒメツル。薄桃色の髪で海を思わせる青い瞳。人々から「最悪の魔女」と呼ばれる十七歳の少女。世界最強の魔力を有し、その回復力も尋常でなく実質的に無限。才能には恵まれているが、師を持たず独学で魔法を使っており初歩的な失敗をすることも多い。十二歳前後から頭角を現し始めた。それ以前にどこで何をしていたかは謎。大陸南部の出身だという噂はある。

 ただでさえ美貌に恵まれているのに、それに魅了の魔法まで加えて馬鹿な金持ちを騙し、資産を巻き上げて贅沢な暮らしをしている。魔法使いの森の中に鎮座する喋って動いて家事万能の巨大なカエデの木「モミジ」が住み家。

 自由を愛し、宗教が嫌い。聖都シブヤで三柱教の総本山メイジ大聖堂に放火。全焼させて教皇以下の信徒達を激怒させ、討伐に向かった聖騎士団も悪知恵で撃退。以後は超高額の懸賞金をかけられ賞金首となるも、忽然と姿を消す。

 スズラン。生まれつきの白髪で青い瞳。最初は老人のような自分の髪を嫌っていたが、何故か反射光が虹色になると気が付いてからはお気に入り。

 ココノ村の雑貨屋の一人娘。ただし両親との血の繋がりは無い。赤ん坊の時、隣の宿屋の長男が生まれた夜、何者かによって彼の隣に置き去りにされた。その後、子供ができず悩んでいた隣家の夫婦に引き取られる。

 周囲には隠しているが強大な魔力の持ち主で魔法も使える。大人顔負けの知識まで数多く有しており、幼少期から神童と呼ばれる。

 両親の代わりに接客をしたり、服や小物を作って店に並べたりも。今や「しっかり者のスズランちゃん」の名は近隣の村々にまで知れ渡った。

 成長するにつれ賞金首の「最悪の魔女」そっくりになりつつある。村民達は薄々実母の正体を悟りつつ、彼女の幸せを願い、気付かないふりをしている。外部の人間と会う時は周囲の認識を阻害してくれるメガネをかける。友達の魔女から貰った。

 幼馴染のモモハルは自分の天敵だと思っている。だが、その割にはかいがいしく世話をする。周囲は二人が結ばれることを期待中。彼の妹のノイチゴは実の妹のように可愛い。

 モモハル。スズランがココノ村に置き去りにされる直前、宿屋の二階で生まれた少年。宿を経営する若夫婦の跡取り息子。後に妹も生まれる。プラチナブロンドで空色の瞳。母親似の顔立ちで中性的な美形。でも性格は完全に父親似。一途で尻に敷かれるタイプ。

 スズランとは姉弟同然の間柄だが当人は〇歳から異性としての彼女が好き。ある意味とてつもなくマセている。両親も妹も村の皆も大好きだけれど、一番好きなのは絶対的にスズラン。

 実はとんでもない能力を秘めており、育ち方次第では世界を滅ぼしてしまいかねない。その力のせいでスズランからは天敵と認識されている。天真爛漫だが人を驚かすのも好きないたずらっ子。

 スズランの心配をよそに、子供に大人気の絵本「ゆうしゃサボテンシリーズ」を読んでヒーローへの憧れを抱いてしまう。

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