Happy Halloween(4)

文字数 2,074文字

◇不穏なフラグ◇

 しばらくすると今度は真っ白な空に虹の輪が現れ、その中から三つの光が落ちて来た。
「あっ」
「ハッピー・ハロウィン! スズランさん、皆さん、また会えましたね!」
「こ、こんばんはー」
 光の正体は≪有色者≫の鏡矢(かがみや) 雨音(あまね)浮草(うきくさ) 雨楽(うがく)だった。相変わらず双子のように良く似た顔。それでいて身長差は大きい。服装はジャージと部屋着だったが瞬時に有名RPGの勇者とお姫様の姿に変化する。雨音が勇者で雨楽がお姫様。
 彼はガクリと膝をついた。
「どうして僕が、こんな格好に……」
「ドンマイです雨楽さん! すごく似合ってますから!」
「そ、そう? 雨音ちゃんもかっこいいよ」
「やだもう、そんなに褒めないでください。相変わらず雨楽さんは私が大好きですね」
「好きだから告白したんだよ」
「く、くすぐったいことは言わないでください」
 自分の頬を両手で挟み、ぐねぐね悶える雨音。前回の訪問時には知らずに終わった事実なのだが、この二人、なんと同位体同士で交際しているらしい。さらに並行世界の垣根も越えたカップルなのである。
 すると、
「ったく、自分同士でラブラブだな、おめえらはよ」
 もう一人、初めて見る青年──いや中年に近い男も二人の近くに降り立った。こちらはフランケンシュタインの怪物風に変身して頭に大きなネジを刺したままスズラン達に対しにこやかな愛想笑いを向ける。
「どうもー、俺がこのパーティーの主催者です」
「では貴方が?」
 近付いて行き右手を差し出すスズラン。男は頷いて握り返した。
「押忍、浮草 雨龍(うりゅう)っス。ようやく直に会えましたね、ウィンゲイトさん」
「今の私はスズランです」
「ああ、そうでしたねスズランさん」
 大柄な若者だ。雨音や雨楽の同位体だそうだが、それにしては全く似ていない。両親のうちどちらかの因子に偏った結果だろう。
「素晴らしい催しを開催してくださり感謝しております。皆、楽しんでいますよ」
「そっスか、ならこっちとしても嬉しいです。呪いを浄化してもらったおかげで数え切れない世界が助かりましたからね。いっぺん崩壊した世界まで復活させてもらえたおかげで、昔のダチとも再会できました」
「それは頑張った甲斐がありました。貴方のサポートも、とても助かりましたよ」
「いやあ、照れるな」
 二人が互いの健闘を称え合っていると雨音が割り込んで来た。
「あの、お話し中に申し訳ないんですけど、そろそろ行っていいですか?」
「雨音ちゃん、そんなに急がなくても」
「何言ってるんですか雨楽さん! お菓子食べ放題ですよ! しかも、ここでいくら食べても現実では太らないし虫歯にもならない! 天国じゃないですか! 初めて雨龍さんが良い仕事してくれましたよ!」
「おい」
「どうぞ、いってらして」
「ありがとうございます! さあ、行きましょう雨楽さん!」
「わあ、待って、速っ──」
 腕を引かれ連れ去られる雨楽。小柄な勇者が同じ顔のお姫様を宙に浮かせて駆ける姿に人々はびっくり仰天。
「な、なんじゃあれは……」
「もののけの類か?」
「どっかで見た顔じゃったのう」
「さて」
 雨龍は突然、周囲をぐるりと見渡し始めた。何かを確かめるように。
「うん……よし、ちゃんと構築できてるな。感覚もリアル。まあアバターを使って現実と変わらない体にしてあるし当然か。自動的に衣装を割り当てるアルゴリズムも、見た感じ良さげに働いてくれてると」
「……貴方、単なる感謝の気持ちでこれを開催したわけじゃありませんね?」
 スズランはすでに見抜いていた。彼女の中のユカリが教えてくれたからだ。この空間を構築するコードの中にハロウィンパーティーには不要なものが混入していると。おそらく、本来はもっと大規模で精細な世界を再現しようと試みたプログラム。
「流石、バレてましたか。実はその、スズランさん……って、なんか見た目ちっこいから違和感あるな。俺もスズちゃんて呼んでいいスか?」
「構いません」
「じゃあ改めて。スズちゃん達に頼みたいことがあるんスよ」
「頼み?」
「ゲーム、お好きですか?」

 雨龍はニヤリと笑い、懐から便箋を一つ取り出す。
 それを手渡しながら明かした。

「今回のこれはテストも兼ねてたんです。これだけの大人数を同時に受け入れた際の負荷に耐えられるかどうかのね。結果は上々、皆さんのおかげでいけると確信しました。次は少人数でいいんで、良ければ引き続きベータテストにも参加してみてください」
「ファイナル……ナナイロクエスト?」
 便箋の中身はチケットで、表面にそう印刷されている。
 読み上げたスズランに爽やかな笑みを向ける雨龍。
「俺とダチが共同開発した自信作です!」
「なるほど……」

 予知だろうか? 彼女は、なんだか嫌な予感を覚えた。

「まあ、それはそれとして」
 雨龍に暇を告げ、家族や友人達の方へ歩き出すスズラン。
「今回は素直に楽しむとしましょう」
 甘い物にはお茶が合う。始原の力で銘茶カタバミ入りティーポットを再現。彼女はそれを皆に振る舞いつつ、自分も思う存分甘味に舌鼓を打つのだった。
 このパーティーは、毎年開催してもいいかもしれない。
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登場人物紹介

 ヒメツル。薄桃色の髪で海を思わせる青い瞳。人々から「最悪の魔女」と呼ばれる十七歳の少女。世界最強の魔力を有し、その回復力も尋常でなく実質的に無限。才能には恵まれているが、師を持たず独学で魔法を使っており初歩的な失敗をすることも多い。十二歳前後から頭角を現し始めた。それ以前にどこで何をしていたかは謎。大陸南部の出身だという噂はある。

 ただでさえ美貌に恵まれているのに、それに魅了の魔法まで加えて馬鹿な金持ちを騙し、資産を巻き上げて贅沢な暮らしをしている。魔法使いの森の中に鎮座する喋って動いて家事万能の巨大なカエデの木「モミジ」が住み家。

 自由を愛し、宗教が嫌い。聖都シブヤで三柱教の総本山メイジ大聖堂に放火。全焼させて教皇以下の信徒達を激怒させ、討伐に向かった聖騎士団も悪知恵で撃退。以後は超高額の懸賞金をかけられ賞金首となるも、忽然と姿を消す。

 スズラン。生まれつきの白髪で青い瞳。最初は老人のような自分の髪を嫌っていたが、何故か反射光が虹色になると気が付いてからはお気に入り。

 ココノ村の雑貨屋の一人娘。ただし両親との血の繋がりは無い。赤ん坊の時、隣の宿屋の長男が生まれた夜、何者かによって彼の隣に置き去りにされた。その後、子供ができず悩んでいた隣家の夫婦に引き取られる。

 周囲には隠しているが強大な魔力の持ち主で魔法も使える。大人顔負けの知識まで数多く有しており、幼少期から神童と呼ばれる。

 両親の代わりに接客をしたり、服や小物を作って店に並べたりも。今や「しっかり者のスズランちゃん」の名は近隣の村々にまで知れ渡った。

 成長するにつれ賞金首の「最悪の魔女」そっくりになりつつある。村民達は薄々実母の正体を悟りつつ、彼女の幸せを願い、気付かないふりをしている。外部の人間と会う時は周囲の認識を阻害してくれるメガネをかける。友達の魔女から貰った。

 幼馴染のモモハルは自分の天敵だと思っている。だが、その割にはかいがいしく世話をする。周囲は二人が結ばれることを期待中。彼の妹のノイチゴは実の妹のように可愛い。

 モモハル。スズランがココノ村に置き去りにされる直前、宿屋の二階で生まれた少年。宿を経営する若夫婦の跡取り息子。後に妹も生まれる。プラチナブロンドで空色の瞳。母親似の顔立ちで中性的な美形。でも性格は完全に父親似。一途で尻に敷かれるタイプ。

 スズランとは姉弟同然の間柄だが当人は〇歳から異性としての彼女が好き。ある意味とてつもなくマセている。両親も妹も村の皆も大好きだけれど、一番好きなのは絶対的にスズラン。

 実はとんでもない能力を秘めており、育ち方次第では世界を滅ぼしてしまいかねない。その力のせいでスズランからは天敵と認識されている。天真爛漫だが人を驚かすのも好きないたずらっ子。

 スズランの心配をよそに、子供に大人気の絵本「ゆうしゃサボテンシリーズ」を読んでヒーローへの憧れを抱いてしまう。

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