#2. アイリーン②

文字数 1,584文字

 昔の話だ。今は遠い、遥か昔の話になる。

「なぜ教皇を頂点とする国に、アヴァロンの名を冠するのか。僕は反対だ」

 戦女神ヴァルキュリアを退け、人類を滅亡の淵から救い、ユースフロウ大陸を統一したオズワルドは、その国名を拒んだ。元来、でしゃばるのが性に合わないオズワルドらしい意見だった。

「教皇は民心を慰撫し、国王が政治を統べる。アヴァロン皇国という名は、それを良く顕すわ」

 居並ぶ各地の諸侯を前にしたマーリンの発言に、オズワルドは沈黙した。こうして、ユースフロウ連合国改め、アヴァロン皇国は誕生した。国王、女王が教皇の下に並び立つのは、男女平等も目指しての事だった。

「思えば、奇妙な人生だった。女神として製造されたわらわが、今、人として、女王として、こうして最期を迎えようとしている……苦しく、辛く、悲しい事もたくさんあった……」

 アイリーンはベッドの中、しみじみと呟いた。アイリーンは、オズワルドが戦い、生き抜く理由そのものだった。

「……知っています。して、アイリーンくん」
「うん?」
「キミは、幸せでしたか?」

 私は、ゆっくりと月光差し込む窓辺に寄ると、後ろ手に問いかけた。静かだ。あまりの静寂に、耳が痛くなるほどに。私は、これが最後の問いになる事を予感した。

「……ああ、……そうだな。幸せな、人生、だっ、た……」

 アイリーンは柔らかな微笑みを浮かべ、静かに目を閉じた。そして、二度とその目を開ける事は無かった――。

「愛した人を得る事は幸福だ。そして、その人を失うのは、その次に幸福だ、と……? 馬鹿な。そんな事があるものか……そんな、事がっ……今の、私がっ、幸福であるわけが、ないっ……」


 
 大仕事であった女王陛下の葬儀を終えた私は、王族専属護衛騎士団の創設を決意した。新国王も新女王も、オズワルドやアイリーンに比べてあまりにも貧弱で脆弱だったのがその理由だ。神殺しの英雄と比するのは酷ではあるが、それでなくとも頼りなかったのだ。

 そして、ナイト・オブ・ナイツ、ナイツ・オブ・アヴァロンを掲げ、その騎士団は誕生した。

 キングス・シールド。
 クィーン・シールド。
 プリンス・シールド。

 各5名で編成されるシールド騎士団。
 各員が一騎当千は当然として、知力、魅力、胆力も人並み外れた騎士たちが選ばれた。

 その全員が教皇猊下より神器(アーティファクト)を下賜される事となる。魔法が知られていなかった当時は、反旗を翻した地方領主など、神器を操るシールド騎士団だけで、軽々と鎮圧出来たものだった。

 だが、今は違う。2000年前、魔法を使えるのは、魔力回路の保有者だけだった。しかし、エレメンタルが満ちたこの世界では、魔力回路を持たない者でも、魔術という形で魔法を行使出来るようになってしまったのだ。

 だから私は軍務省を創設し、魔法を含む全軍事力を管理させる事にした。シールド騎士団を脅かす存在を抑える為に。ひいては、王族の安寧を守護する為に。

 誰にも、王族は害させない。王位継承による内乱も起こさせない。王家は一子相伝、男子のみを養育し、妻には私の探し出したソウルメイトを充てがう。そのソウルメイトの家系は、私が直々に、計画的に根絶する。

 王家は、私が守るのだ。アヴァロン皇国は、私が永遠に守ってみせる。この国には、まだ果たすべき役目がある。環状六島を征服し、ツインタワー本来の機能を取り戻すのだ。それをもって天界を攻撃し、消滅させる。それの名は、【アバドーン】。

 防御回避不可能な、極大魔力次元転送砲アバドーン(冥界の門)。その門を開く為に、この国はあるのだ。

「それまでには、また、会える。アイリーンくんの生まれ変わりにも、きっと――」

 そして私は、愛と出会う事となる。
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登場人物紹介

 東条愛。15歳。倭の国の姫。魔力回路【モンスター】の保有者。

 王族専属護衛騎士団【プリンセス・シールド】に入隊した後、エルンスト教教皇マーリンより神器【クレイモア・ギガース】を賜る。

 愛の成長が、この世界を滅亡から救う鍵となる。

 木霊。4000歳以上。愛の左手薬指にはまる、白金の指輪。

 最強の魔力回路【ネクロマンサー】を持つ不死者。

 愛に残酷な試練を与えるべく寄生している。

 クラリス・ベルリオーズ。17歳。隻眼隻腕のプリンセス・シールド団長。

 仲間の仇である【黒騎士】打倒に執念を燃やす。

 魔力回路は【ファイア・スターター】。神器【アンフラム・ファルシオン】を自在に操るクラリスは、大陸最強の騎士との呼び声が高い。

 

 アリス・ベルリオーズ。?歳。自称クラリスの妹を名乗る妖精。

 魔力回路【オールマイティ】を駆使し、クラリスを補佐するプリンセス・シールド騎士団副団長。

 自らに定められた「消滅の時」を受け入れ、それまで必死に生きると決めた。

 エスメラルダ・サンターナ。16歳。ユースフロウ大陸南部地方エルサウス出身。

 クラリスにその強大な能力を見出され、プリンセス・シールドにスカウトされた。

 精神感応系魔力回路【アナライザー】の保有者。

 その能力ゆえ人々に疎まれたエスメラルダは、滅多にその力を使わない。

 エルザ=マリア・フェルンバッハ。14歳。エルグラン出身の大魔術師。

 特定危険人物に指定され、アヴァロン皇国首都エールにある城塞牢獄ダイアモンド・プリズンに収監されている。

 両親を殺害し、フェルンバッハ家を滅亡寸前にまで追い込んだ者への復讐を胸に秘め、プリンセス・シールドに加入した。本人は牢獄にあるため、くまのぬいぐるみを遠隔操作して戦う。

 ジャン=ジャック・ドラクロワ。20歳。軍務省所属。階級は少佐。正式呼称はメイジャー・ドラクロワ。魔力回路【コンダクター】により、飛空船を意のままに操る天才艦長。四大公爵の一人、デューク・エールストンと、対等に話せる友人関係にある。クラリスの許嫁だが、父親であるドラクロワ伯爵からは反対されている。

 プリンセス・アヴァロン。15歳。本名秘匿。アヴァロン皇国2000年の歴史の中で、初めて生まれた女児。王家が二児以上もうけたことはかつて無く、その為「不吉姫」などと揶揄する勢力もある。

 愛と同様、この世界を救う鍵を持つ姫だが、その力に気づく者はまだいない。

 黒騎士と呼称される謎の騎士。当時キングス・シールド騎士団を率いていたクラリスの仲間を、その圧倒的な戦闘力で惨殺した犯人。この戦いでクラリスは左腕と左目を失った。神出鬼没、正体不明、目的不明。剣も魔法も一切通用しない無敵の騎士。

 ベルトラン・ケ・デルヴロワ。23歳。キングス・シールド騎士団団長。

 人類であるかも疑わしい面貌を持つ巨漢騎士。魔力回路を持たない為、神器【ウイングド・ハルバート】のみを頼りにのし上がった剣技の実力派。

 顔も口も悪いが、正義の為、仲間の為なら血を流すことを躊躇わない熱血漢。

 ただ、少女のドレスを収集する趣味があり、性癖的には危険。

 オメガ。年齢不詳、能力不明の敵魔導師。木霊に深い恨みを持つ。

 獣人王ウィンザレオ、竜王ゲオルギウス、妖精王オベロン、魔王ディアボロと盟約を結び、世界を混沌へと導く。

 プリンセス・シールドは、この少年の掌の上で踊らされることとなる。

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