#7. 待ち合わせ

文字数 1,267文字

 果たして、アリスはすぐに見つかった。飛空船格納庫からはかなり離れていたが、私の魔力回路により生成された【千里眼】をもってすれば、一度見失った小さな妖精であっても補足は容易い。
 そこは、王城の開放区画、ローズガーデンだった。その入り口付近のベンチ上で、アリスはそわそわと浮いていた。辺りを見回したり俯いたり、突如くるくると回ってみたり……その様子を一言で表すと不審だった。それはもう、他の観光客が二度見、三度見するほどだ。ここは王都有数の観光地、その入り口ゲートである。アリスは大変目立っていた。それをこそこそと眺めている我々も、結構注目を集めたが。シールド騎士の隊服を着ているせいもある。

「どうしたんだろうね、アリスちゃん。頭がおかしくなっちゃったのかな?」

 愛は率直に今のアリスに対する感想を述べた。酷い。まぁ、私も同感ではあるが。

「ちちち、違いますよぅ、愛さん!」

 聞き捨てならなかったのか、エスメラルダが珍しく声を大にして否定した。

「違うの? じゃあ、アリスちゃんはどうしてあんなに変になってるの?」

 愛がくりっと首を傾げ、エスメラルダに問いかけた。その後のエスメラルダの答えに、私も愛も仰天した。

「あれはですねぇ」
「あれは?」

 エスメラルダがこほんと一つ、咳払いした。

「ずばり、恋をしてるんです!」

 そして、とんでもないことを断言した。
 あまりにも想定外な答えに、私と愛は叫ぼうとしたが、

「しーっ! 静かにしてくださぁいっ!」

 その叫びは、なんとエスメラルダの魔力回路によって阻まれた。神経支配だ。信じられない。私と愛は、この地上においてほぼ最大の魔力量を持っている。その我々を、エスメラルダは2人まとめて黙らせたのだ。

「大きな声を出さないでくださぁい。アリスさんは、おそらく誰かと待ち合わせしていますぅ。その誰かが来るまでは、気づかれるわけにいかないんですよぅ」

 愛に無理やり連れて来られたはずのエスメラルダがノリノリだ。エスメラルダめ、さては色恋沙汰や噂話が大好物なのでは。今までに話す相手がいたのかは疑問だが……、待てよ。むしろ、それ故に飢えている? と、そこへエスメラルダの読み通り、何者かがやってきた。

「やぁ、アリス。久しぶりだね、待ったかい?」
「あ、レレレ、レイ。い、いいええ、わたくしも、今、来たところですわ」

 我々には明らかに嘘だと分かる。アリスは少しどもりつつ、顔を赤らめてその相手に振り返った。

「やっぱり! ふああ、あの子が、アリスさんの恋のお相手なんですねぇぇぇ!」

 エスメラルダが手を組んで飛び上がった。何がそんなに嬉しいのか私には理解しかねる。
 レイと呼ばれたその相手は、アリスよりも一回り小さな妖精だった。というよりは、アリスが妖精にしては大きいのだ。レイが標準的なサイズだろう。背中の翅は、アリスと違ってトンボのようだ。これも普通の妖精のもの。服など、当然着ていない。

 アリスが、おかしいのだ。なにもかも。
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登場人物紹介

 東条愛。15歳。倭の国の姫。魔力回路【モンスター】の保有者。

 王族専属護衛騎士団【プリンセス・シールド】に入隊した後、エルンスト教教皇マーリンより神器【クレイモア・ギガース】を賜る。

 愛の成長が、この世界を滅亡から救う鍵となる。

 木霊。4000歳以上。愛の左手薬指にはまる、白金の指輪。

 最強の魔力回路【ネクロマンサー】を持つ不死者。

 愛に残酷な試練を与えるべく寄生している。

 クラリス・ベルリオーズ。17歳。隻眼隻腕のプリンセス・シールド団長。

 仲間の仇である【黒騎士】打倒に執念を燃やす。

 魔力回路は【ファイア・スターター】。神器【アンフラム・ファルシオン】を自在に操るクラリスは、大陸最強の騎士との呼び声が高い。

 

 アリス・ベルリオーズ。?歳。自称クラリスの妹を名乗る妖精。

 魔力回路【オールマイティ】を駆使し、クラリスを補佐するプリンセス・シールド騎士団副団長。

 自らに定められた「消滅の時」を受け入れ、それまで必死に生きると決めた。

 エスメラルダ・サンターナ。16歳。ユースフロウ大陸南部地方エルサウス出身。

 クラリスにその強大な能力を見出され、プリンセス・シールドにスカウトされた。

 精神感応系魔力回路【アナライザー】の保有者。

 その能力ゆえ人々に疎まれたエスメラルダは、滅多にその力を使わない。

 エルザ=マリア・フェルンバッハ。14歳。エルグラン出身の大魔術師。

 特定危険人物に指定され、アヴァロン皇国首都エールにある城塞牢獄ダイアモンド・プリズンに収監されている。

 両親を殺害し、フェルンバッハ家を滅亡寸前にまで追い込んだ者への復讐を胸に秘め、プリンセス・シールドに加入した。本人は牢獄にあるため、くまのぬいぐるみを遠隔操作して戦う。

 ジャン=ジャック・ドラクロワ。20歳。軍務省所属。階級は少佐。正式呼称はメイジャー・ドラクロワ。魔力回路【コンダクター】により、飛空船を意のままに操る天才艦長。四大公爵の一人、デューク・エールストンと、対等に話せる友人関係にある。クラリスの許嫁だが、父親であるドラクロワ伯爵からは反対されている。

 プリンセス・アヴァロン。15歳。本名秘匿。アヴァロン皇国2000年の歴史の中で、初めて生まれた女児。王家が二児以上もうけたことはかつて無く、その為「不吉姫」などと揶揄する勢力もある。

 愛と同様、この世界を救う鍵を持つ姫だが、その力に気づく者はまだいない。

 黒騎士と呼称される謎の騎士。当時キングス・シールド騎士団を率いていたクラリスの仲間を、その圧倒的な戦闘力で惨殺した犯人。この戦いでクラリスは左腕と左目を失った。神出鬼没、正体不明、目的不明。剣も魔法も一切通用しない無敵の騎士。

 ベルトラン・ケ・デルヴロワ。23歳。キングス・シールド騎士団団長。

 人類であるかも疑わしい面貌を持つ巨漢騎士。魔力回路を持たない為、神器【ウイングド・ハルバート】のみを頼りにのし上がった剣技の実力派。

 顔も口も悪いが、正義の為、仲間の為なら血を流すことを躊躇わない熱血漢。

 ただ、少女のドレスを収集する趣味があり、性癖的には危険。

 オメガ。年齢不詳、能力不明の敵魔導師。木霊に深い恨みを持つ。

 獣人王ウィンザレオ、竜王ゲオルギウス、妖精王オベロン、魔王ディアボロと盟約を結び、世界を混沌へと導く。

 プリンセス・シールドは、この少年の掌の上で踊らされることとなる。

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