#18. 雷撃戦

文字数 1,843文字

 魔軍参謀、レイス。懐かしい名だ。思えば、やつと知り合ったのも4000年前になるのか。当時、魔王ディアボロが滅びたと勘違いしていたレイスは、残存兵力を率いる遊軍の長として暴れていた。

 そうだ。ウィリスがレイスと同じ力を使えていたならば、愛たちは最初の霧の発現で死んでいる。幻影など、レイスの操る霧の力の一端、ほんの一部に過ぎない。

 これならば、私が出るまでも無いだろう。では、アリスの方はどうなった?

「雷衝壁!」
「むっ!」
「ちっ!」
「こいつ!」

 アリスは群がる3人の黒騎士を、雷撃で引き下がらせていた。周囲にデタラメに放たれた雷撃は、すぐに地面に落ちていく。距離を取った黒騎士たちには届かない。

「トレール!」

 距離を取った黒騎士たちに向けて、アリスが風属性の魔法、トレールを放った。これは風で作られる伝導路。雷撃を放つ為の予備魔法だ。

「かわせ!」
「く、速いっ!」
「このチビがっ!」

 黒騎士たちは三方向に散っていく。目に見えないトレールをかわすのは難しい。しかし、これを受けたら最期。直後、絶対に雷撃が命中する。難しいと言って動かねば、即死する。

「やるぞ、あのチビ」
「ああ。雷撃使いなど、トレールさえなんとかしてしまえば怖くないのだが」
「チビめ、あんなに速くて正確なトレールを放てるとは。これは引き締めなければならん」

 黒騎士たちは、次々と襲い来るトレールをかわすのに必死だ。雷撃は狙った所に命中させるのが難しい。それを風の伝導路によって補助するわけだが、実はこちらも扱いが難しい。光の速さで敵を攻撃する雷撃は、回避不能の強力無比な魔法だが、これがネックとなり、使い手は少ないのだ。

「あらあら、3人も殿方がいて、こんなに小さなわたくしに近づく事も出来ませんのかしら? それでは、軍部の騎士の、底が知れると言うものですわ!」

 アリスは風を纏い、高々と舞い上がる。なるほど、副団長を任されるだけはある、か。アリスを見かけで判断すると、大火傷を負いそうだ。

「調子に乗るなよ!」

 黒騎士の一人が槍を構え、炎を纏って突進した。その炎を、不可視のトレールの探知機として利用するつもりか。それはいいアイディアだ。だが。

「かかりましたわね!」
「ぬお! これはっ?」

 突進した黒騎士が、がくんと速度を落として止まった。いや、止められたのだ。黒騎士の足には、蔦がうねうねと絡みついていた。これは土属性の魔法、速成令樹。流石は魔力回路オールマイティ、見事な他属性との合わせ技だ。

「動きさえ止めてしまえば!」
「しまっ、」

 炎の探知機が反応した。黒騎士の体を覆っていた炎が、胸の辺りだけぽっかりと無くなった。トレールだ。ここに、アリスのトレールが命中したのだ。

「もらいましたわ!」
「ぐあああああああ!」

 トレールを伝い、暴れる大蛇のごとき雷撃が黒騎士を撃ち抜いた。

「チャーリー!」

 剣を構えた黒騎士が叫んだ。闘技場の直上にある魂魄の護牢の中、1羽の鳥が消滅した。

「はい、退場ね」
「うわ、わわわ」

 アリスの雷撃に撃ち抜かれた黒騎士を、マーリンが魔法で闘技場からつまみ出した。その黒騎士は宙に浮かび、マーリンの横にすとんと下ろされた。

「き、教皇猊下! 私のような者が、御身のお側にいては!」
「構いません。そもそも私は、皆の上にいるつもりもありません。だから誰が私の側にいようとも、全く気にする事も無いのです」
「は、ははっ!」

 黒騎士は兜を脱いでマーリンに平伏した。現れたのは、普通の顔だ。瞳は黒い。やはり、あの黒騎士では無い。

「一人やられたぞ」
「まずい。手間取れば、愛姫の相手をしているアルファが不利になる」
「そうか?」
「いや、そうでもないか。ふふふ」

 アリスに一人倒された黒騎士チームだが、まだまだ余裕がありそうだ。一人は剣を、もう一人は弓を構え、アリスを左右から狙っている。

「……気に入りませんわね、その余裕」

 アリスは左右に目を走らせ、手から炎を迸らせた。

「油断するなよ、アリス。敵は、まだ何の手の内も明かしていない」

 気怠げに肘掛けにもたれて観覧するエインズワースの横で、クラリスが心配そうに呟いた。

「ふわあああ。アリスさん、つ、強いいいい……」

 闘技場の壁際で頭を抱えて蹲っていたエスメラルダが、少しだけ目を出してアリスを見上げていた。

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登場人物紹介

 東条愛。15歳。倭の国の姫。魔力回路【モンスター】の保有者。

 王族専属護衛騎士団【プリンセス・シールド】に入隊した後、エルンスト教教皇マーリンより神器【クレイモア・ギガース】を賜る。

 愛の成長が、この世界を滅亡から救う鍵となる。

 木霊。4000歳以上。愛の左手薬指にはまる、白金の指輪。

 最強の魔力回路【ネクロマンサー】を持つ不死者。

 愛に残酷な試練を与えるべく寄生している。

 クラリス・ベルリオーズ。17歳。隻眼隻腕のプリンセス・シールド団長。

 仲間の仇である【黒騎士】打倒に執念を燃やす。

 魔力回路は【ファイア・スターター】。神器【アンフラム・ファルシオン】を自在に操るクラリスは、大陸最強の騎士との呼び声が高い。

 

 アリス・ベルリオーズ。?歳。自称クラリスの妹を名乗る妖精。

 魔力回路【オールマイティ】を駆使し、クラリスを補佐するプリンセス・シールド騎士団副団長。

 自らに定められた「消滅の時」を受け入れ、それまで必死に生きると決めた。

 エスメラルダ・サンターナ。16歳。ユースフロウ大陸南部地方エルサウス出身。

 クラリスにその強大な能力を見出され、プリンセス・シールドにスカウトされた。

 精神感応系魔力回路【アナライザー】の保有者。

 その能力ゆえ人々に疎まれたエスメラルダは、滅多にその力を使わない。

 エルザ=マリア・フェルンバッハ。14歳。エルグラン出身の大魔術師。

 特定危険人物に指定され、アヴァロン皇国首都エールにある城塞牢獄ダイアモンド・プリズンに収監されている。

 両親を殺害し、フェルンバッハ家を滅亡寸前にまで追い込んだ者への復讐を胸に秘め、プリンセス・シールドに加入した。本人は牢獄にあるため、くまのぬいぐるみを遠隔操作して戦う。

 ジャン=ジャック・ドラクロワ。20歳。軍務省所属。階級は少佐。正式呼称はメイジャー・ドラクロワ。魔力回路【コンダクター】により、飛空船を意のままに操る天才艦長。四大公爵の一人、デューク・エールストンと、対等に話せる友人関係にある。クラリスの許嫁だが、父親であるドラクロワ伯爵からは反対されている。

 プリンセス・アヴァロン。15歳。本名秘匿。アヴァロン皇国2000年の歴史の中で、初めて生まれた女児。王家が二児以上もうけたことはかつて無く、その為「不吉姫」などと揶揄する勢力もある。

 愛と同様、この世界を救う鍵を持つ姫だが、その力に気づく者はまだいない。

 黒騎士と呼称される謎の騎士。当時キングス・シールド騎士団を率いていたクラリスの仲間を、その圧倒的な戦闘力で惨殺した犯人。この戦いでクラリスは左腕と左目を失った。神出鬼没、正体不明、目的不明。剣も魔法も一切通用しない無敵の騎士。

 ベルトラン・ケ・デルヴロワ。23歳。キングス・シールド騎士団団長。

 人類であるかも疑わしい面貌を持つ巨漢騎士。魔力回路を持たない為、神器【ウイングド・ハルバート】のみを頼りにのし上がった剣技の実力派。

 顔も口も悪いが、正義の為、仲間の為なら血を流すことを躊躇わない熱血漢。

 ただ、少女のドレスを収集する趣味があり、性癖的には危険。

 オメガ。年齢不詳、能力不明の敵魔導師。木霊に深い恨みを持つ。

 獣人王ウィンザレオ、竜王ゲオルギウス、妖精王オベロン、魔王ディアボロと盟約を結び、世界を混沌へと導く。

 プリンセス・シールドは、この少年の掌の上で踊らされることとなる。

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