おとなりさん(2024.5②)

文字数 530文字

買い物から帰ると
マンション前に
引っ越し業者のトラックが止まっている

エレベーターで9階まで上がり
引っ越しするのはおとなりさんだと知る

コマーシャルで見慣れた作業服を着た若者が
慣れた動きで荷出しをしており
こんにちは
と声を掛けてくれた

ぼくは
邪魔にならないように
壁に沿って横歩きし
お疲れさまです
と言って部屋に入った

壁を隔てて
複数人を感じる

ところで
おとなりさんは
どんな人だったのだろう?

一度も顔を合わせたことがないから
性別も年齢も分からない

階上からは
ときおり物音がするのだが
となりからは何も聞こえたことがない

鼻炎がひどくて
朝晩はくしゃみを連発するのに
文句を言われたことはなく
きっといい人なのだと思う

となりにどんな人が住んでいるかも知らずに
四年以上暮らしているのかと思うと
呆れると同時に怖くなる

おとなりさんが
いつから住んでいるかも知らないのだ

もしかしたら
ぼくが暮らす前からかもしれないし
ぼくが暮らしてから何人目かのおとなりさんなのかもしれない

さて
次はどんな
おとなりさんなのだろう?

もしかしたら
チャイムが鳴るかも
と淡い期待を持ったが
いつしか人の気配も荷出しの音も消えた

昨日は本降りだったが
今日は引っ越し日和で良かった

引っ越し先や
引っ越し理由も
顔すら知らないけれど
どうぞお元気で
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