ひとり、震える夜(2021.9.2)

文字数 373文字

背中から首へと
寒さが漏れ出る

夜中の二時過ぎ

君は身震いして
目覚めた

副反応による
悪寒だから大丈夫、落ち着け

落ち着けを
四回唱えて起き上がり
接種帰りに買った
卓袱台の解熱剤を手に取る

ところが
指先まで震えて
箱を開けることができない

思わず
妻の名を呼ぶ

家族と離れ
一人暮らしなのだから
無駄なのに

解熱剤を飲まなければ
悪寒は治まらない
悪寒が治まらなければ
解熱剤を飲めない

深夜二時
小さな箱を
震える手で持ち
途方に暮れる
五十男

そして静寂

君の意に添わず
勝手に震える指先を
眺め続けたら
笑いが込み上げてくる

とにかくおかしくて
自分で自分を笑ったら
生きたいと思った

手の平で
箱を押し潰し
マグカップの水を
溢しながら
二錠流し込む

タオルケットに身を包み
薬が効くのを
震えながらじっと待つ

とことん
追い込まれたら
人間って笑うんだな
知らなかった

熱を帯び
充血した目から
涙が溢れていることに
君は気づかない
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