老婆の自転車(2022.12+α)

文字数 273文字

ふらふら運転の
自転車が倒れて
運転者が下敷きになったので
周りの人たちが
手助けする

ぼくは
前カゴから
落ちた
エコバッグを拾い
元に戻してあげる

見るつもりはなかったが
キャベツが
一玉だけ
入っていた

立ち上がった老婆は
手助けした人たちを
睨んで
ふたたび
自転車にまたがり
のろのろ運転を始める

ありがとう
もなければ
会釈もなかった

ぼくは
腹立たしさ
ではなく
彼女の孤立を
深く感じる


人を
信じられなくなった人は
何を信じて
生きるのだろう


丸い小さな
背中が
だんだんと
遠ざかる

捨て置かれた人たちは
何もなかったことにして
散り散りに先を急ぐ

ぼくは
駆け足で
スーパーを目指す

今日は
野菜の
特売日なのだ
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