時間喪失(2024.3+α)

文字数 476文字

目と鼻の先に
TOILETがあるのに
わき目もふらず
改札口の駅員に走り寄り
つかぬことをお聞きしますが
と頭を下げて トイレの場所を聞く

さっきまで目と鼻の先にあった
TOILETまで戻り
慌てて駆け込む

 往復五〇秒の時間喪失
 下腹を押さえ限界寸前

頭上にズラした眼鏡を探し続けて
見つからず コンタクトレンズを入れようと
洗面台の前に立ち
眼鏡の在りかに気づく

 なんと四分半の時間喪失
 いつもの電車に間に合わなければ遅刻決定

視野が狭く
余裕がないから
時間喪失を繰り返す

ところが
五〇秒の時間喪失も個室は埋まっておらず
四分半の時間喪失も平日ではなかった

余裕はないが
運はいいのだ
おまけに
時間喪失ではなく
時間貯金だと言い張る

五〇秒の時間貯金で
便座に腰を下ろした安堵感が五割増しになり
四分半の時間貯金で
自分で自分を笑い 一日が楽しくなる
と得意気に胸を張る

お金をもらっても
彼みたいになりたいとは思わないが
ほんとうは
少しだけ羨ましい

だって
喪失を貯金と考える
なんて私にはできないから

今も彼は
ジャケットの胸ポケットに入れた
小銭入れを探して
平日なのに 
平然と
時間喪失
ではなく 時間貯金している
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