黄色い花(2023.9②)

文字数 376文字

一輪の花をもらった
名も知らぬ黄色い花

 きれいに
 咲いていたから
 どうぞ

乳母車に
犬のぬいぐるみを
乗せた老婆は
駅前で
行き交う人々に
声をかけるが
みんな避けていくので
かわいそうになって
僕は受け取る

 いいことが
 ありますように

腰の折れ曲がった老婆は
僕のために祈ってくれた

どう見ても雑草だが
お金を出しても買うことのできない
幸せを運ぶ花だ きっと

 どうも
 ありがとう

ほら、
やっぱり

最近
忘れていた言葉が
自然と口から出た

名も知らぬ黄色い花を
手にした僕も祈る

 いいことが
 ありますように

老婆は
顔をくしゃくしゃ
にして喜ぶ

と、
その瞬間

入れ歯が
飛び出て
老婆は
真顔になる

 あっ
 はは
 はははは はは

ほら、
やっぱり

最近
忘れていた笑顔が
思わず はじける

老婆には
申し訳ないけれど
心の底から
笑った
久しぶりに

老婆は
入れ歯を外し
一緒に大笑いする

入れ歯を外したら
亡くなった
祖母に似ていると思った
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