ひとり遊び~金曜日の小景~(2023.8②)

文字数 662文字

「じゃあ、また明日」
僕より早く
青信号を渡り終えた
小学生の女の子が
振り返り 手を振る

手を振られた女の子が
「明日は土曜日だよ」
と信号機を挟んで笑う

「あっ、そうだね じゃあ、また来週」
手を振った女の子は言い直す

祝日を忘れたり
金曜日であることを忘れることは
仕事でも良くあることだ

僕が
手を振られた子
だったら
いちいち言わなくても分かる
ことだから
指摘せずに
頭の中で
明後日ね
とか
月曜日ね
と置き換えて
しまうだろう

でも
聞き流した
ことで
痛い目にあった
経験もあるから
指摘した
女の子は
素直で偉いと思う

そして
僕が
手を振る子だったら
そんなこと分かっているから
いちいち言わなくていいじゃん
と文句を言うだろう

言い直した
女の子も
素直で偉いと思う

聞き流す
言い直さない
暗黙の了解が
時に
大きな問題に
なることがあるから
ほんとうは
聞き流さず
言い直す
ことが正しいのだ

小学生に
できて
大人になると
できないこと

分かるだろう
伝わるだろう
と勝手な
思い込みが
落とし穴になる

小学生に
教えられた
おじさんは
ランドセルを
背負っていた頃を
思い出す

通学路を
ともに歩いた
Kは
元気だろうか?

いつまでも
仲良くね
と二人の背中に
言葉を贈る

手を振った
 女の子が
  駆け戻ってくる

「おじちゃん、どうしたの? 足が痛いの?」

横断歩道を渡り終えたところで
右足を軽く上げて
立ち止まっている僕を
心配してくれたらしい

「ありがとう 足は痛くないから大丈夫だよ」
「なら、良かった ばいばい」
「ばいばい」

得意先で
頭を下げた帰り道
なんだか
温かな心地になる

僕は
ゆっくりと
両足着きにならないよう
歩き始める

今日は
直帰に
しよう

また
来週
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み