夫婦喧嘩(2023.10③)

文字数 622文字

進入禁止です

リビングの扉に
妻の書が張られている
書道教室に通い始めて半年にしては
怒りのこもった活きた字だ

二人暮らしで
喧嘩が戦に成れば
顔を合わさないことが肝要で
つまり休戦の申し入れなのだろう

使用禁止です

一階トイレの扉にも
敵の書が張られているので
二階トイレに向かう

階段には
張り紙は見当たらない

あなたのトイレです

二階トイレの扉に
明朝体で印字されたコピー用紙が張られている
墨汁が足りなくなったのか
面倒くさくなったのか

用を足しながら
喧嘩の始まりを思い出そうとするが思い出せず
馬鹿馬鹿しくなるが
普段よりも勢いも切れも良い

私はリビングで寝ます

ベッドルームの扉に
明朝体の赤字で印刷されたコピー用紙が張られている
黒インクが足りなくなったのか
怒りの発露なのか

張り紙を守ったら許します
張り紙を守らなかったら続けます

枕に
ボールペンで書かれたチラシの裏紙が張られている
書と違う見慣れた丸文字だ
色々と深読みするが
おそらく書き分けた意味なんてなくて
思いつきなのだと思う

そういう奴なのだ
長いつきあいだから良く分かる

あとは
キッチンとバスルーム

どんな張り紙なのか
考えながら
ネクタイを外す

いや違う
ボールペンで書いた丸文字が
いつもより筆圧が強い

本気なのだ
冗談ではないのだ


ワイシャツを脱いだら
戦に成った喧嘩のきっかけを
思い出したのだが
すぐには
降伏せず
しばらく
続けることにする

悪いのは
僕なので
すぐに
謝るべきなのだけれど

何だか
だんだんと
楽しくなってきたのだ

そしてなぜか
本気で怒る
妻を愛しく思う
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み