ひとり遊び~土曜日の小景~(2023.8③)

文字数 563文字

いつもの
散歩道にある
喫茶店の前

女子高生二人組が
「ちょうちょうだって、古文かよ」
「でも、蝶のイラスト超かわいいじゃん」
「へたうま」
「っていうか、ゆるキャラ」
と笑いながら
歩いて行く

すれ違った
僕は
右足を
上げて
立ち止まる

いつも見る看板
「てふてふ」の読みは
ずっと「てふてふ」
だと思っていた

漢文は
お手上げ
だったが
古文は
お手上げ
ではなかったはず

恥ずかしさを
通り越して
超恥ずかしい

いや
違う

恥ずかしさを
通り越して
いと恥ずかし

いや
待て

いと恥ずかし
は違う
かも

いや
いや

いと恥ずかし
で正しい
のかも

兎に角
てふてふ
は蝶々
なのだ

「ちょうちょうだって、古文かよ」
「でも、蝶のイラスト超かわいいじゃん」

「蝶だけにね」
だいぶ遅れて
突込みを入れながら
もう少し
勉強しておけば良かったと
落ち込む

ひとり遊び
している
場合ではない

静かに
右足を
降ろす

本屋に
寄って
古文の入門書を
買って帰ろう

ついでに
昆虫図鑑で
イラストの
超かわいい
青い蝶を
見つける

今度
すれ違ったら
女子高生に
蝶の名を
報せるのだ

てふてふ
が蝶々だと
教えてもらった
御礼に

イラストを
指差しながら
独り言したら
「なに、あのおじさん」
「蝶の名前言っているの? 超やばいじゃん」
と不審者扱いされるだろうけど

ひとり遊びを
終えた
僕は
「蝶だけにね」
とふたたび呟き
いつも通り
歩き始める

横断歩道を渡るとき
ラインが気になり
ぎこちなくて
笑ってしまう
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