時との対峙(2022.10+α)

文字数 597文字

昨日も、明日を捕まえようと待ち構えていたのだが、寸でのところで逃げられてしまったのは、明日の速さを甘く見ていたからで、今日は両手を広げ、息を整えて身構えている。あと一分だ。相変わらず姿は見えないのだが、気配は感じているから、何とかなりそうな気がしている。あと十秒になり、息を殺す。

あっ

捕まえたと思ったら、するりとすり抜けた。手応えはあったのに。明日は今日になっている。僕も昨日から今日に移動したのだ。こうなったら、時間を止めるしかない。あるいは、昨日に戻って、今日を捕まえ直すか。

明日か明後日か

医師から宣告されたのは、一昨日だったか、昨日だったか。とにかく、明日を捕まえて、しばらく待ってくれるように頼むしかないのだ。医師は手を尽くしたらしいが、息子の僕は最期まで足掻く。

明日の捕まえ方
昨日への戻り方
今日の止め方

明日を捕まえた、という投稿を信じて二日やってみたが、かなり難しい。一か月繰り返せば、できる気もするが、そんな時間はないのだ。昨日への戻り方、今日の止め方に方向性を変えることにする。

病室の父はすやすやと眠っている。時と対峙する僕の背中に、もういいから手を握ってあげて、と母の声がする。僕は時と対峙するのをやめて父と対峙し、手を握る。

昨日も今日も明日もなく、大切なのは今なのだ。もう父も望んでいないような気がしたのは、手を強く握り返されたから。右手を母が、左手を僕が握り、その時を待つ。
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