ひこうき雲(2023.3③)

文字数 627文字

風を感じる日は余裕があり 空を見上げる日は余裕がない 今は、風を感じる日が週に多くて二日だから 仕事に追われ、時間に追われ 一日があっという間に終わる

空を見上げたら いつもの方向に ひこうき雲を探す

見知らぬ人に道を聞かれ 出張で来ているので分からないと嘘を吐く 一分ほど歩いて慌てて来た道を戻るが 見知らぬ人は見当たらない 余裕がない日は余優もなくなり 容姿も優れず仕事もできない優しさだけが取り柄の僕は いよいよ存在価値を失う

飛行機にはしばらく乗っていない

観葉植物に水をやり過ぎて腐らせてしまう僕は 水をやらずに枯らしてしまう彼女を探しているのだが 水をやり過ぎる男は束縛しそうだと言われて敬遠される ただ僕は 一日2ℓの水を飲むようになってから体調がいいので 観葉植物も同じだと思っているだけなのだ 観葉植物が話せれば解決できる問題なのだが 観葉植物は話せないから 過剰な思いやりで腐らせてしまう

今朝のひこうき雲はやけに長々とたなびく

久しく実家に帰っていない 飛行機なら一時間もあれば着くのだが ウィルスを理由に延期を繰り返し いつしか中止になって それきりになっている 父は水をやり過ぎて腐らせてしまう性質で 母は水をやらずに枯らしてしまう性質だ 二人とも仲良く高所恐怖症で飛行機嫌いだが 息子の僕は飛行機が好きで 以前は海外にも出掛けたのに 今では出張者と嘘を吐くのがせいぜいだ 今週末は実家へ帰ることに決めた 連絡せず、驚かせよう

今、風を感じた
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