ペットショップ(2023.6③)

文字数 695文字

ショッピングセンターの色褪せたベンチからずっと眺めているのは 
 ペットショップのショーケースを入れ替わり立ち替わり覗く人々
の後ろ姿なのだが わたしの視線に気づくことなく感情を溢れさせ
るから 観ていて飽きない 飛んだり跳ねたり 手を叩いたり 笑
ったり 勝手に名前をつけて呼んだり 夢中になり過ぎてガラスに
顔をぶつけて泣き出す子がいたり とにかく賑やかで楽しそうだ 
犬派と猫派は6対4くらいで犬派に軍配が上がる ただ ショーケ
ース前に立ち止まる時間は猫派の方が長く より熱量を感じる わ
たしはどちらかといえば猫になりたい 犬は愛らしく動き回り ま
るで人気アイドルみたいだが 猫は寝転んでいるか 気難しそうに
歩いているかで 孤高の小説家みたいなのだ 人気アイドルでも孤
高の小説家でもない中肉中背の中年男のわたしは 誰からも見られ
ることもなく 二つ目のおにぎりを食べる 紅鮭の次はツナマヨ 
わたしの好きな具材ツートップだ

視線を感じて振り向けば 雀が手すりに止まってわたしを見下ろし
ている 観られると 人間でなくてもやはり緊張する

えっ

雀が高速でわたしの足元に飛来する 慌てて両足を上げるが 目当
てはわたしではなく 落とした米粒だったようだ

すっと来てすっと行ってしまったので なんだか淋しくなって わざ
と米粒を落としてみる しかし 雀は飛んでこない つれない態度
に腹が立つ

落とした米粒を拾い 再び視線を感じて顔を上げると ショーケー
ス前で一人だけ こちらを向いている女の子がいて わたしを指差
して笑っている 

ショーケースで飼われていない中年男は精一杯の笑顔で応える どう
やら彼女もわたしと同じ人派らしい
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み