親子麦酒(2021.11.7)

文字数 445文字

俺はいつから
俺のことを僕と言い
僕のことを私と言うように
なったんだっけ?

働き始めた息子が
帰省して
私は
なんて言うものだから
ついつい考え込む

就職しても
しばらくは
俺だったような気がするし
今でも
社外では私だが
社内では僕だったり私だったり
家庭では俺で通している

息子は
俺だったか
僕だったか
憶えていないが
たぶんどちらもで
初めて
私は
と言い始めたから
思いがけず
引っ掛かっているのだ

職場で
社会人としての一人称を叩きこまれ
実家に戻っても
緊張感が抜けずにいるなんて

何だか
人として
階段を
一つ昇った
気がする

まぁ、飲もうよ
ビール瓶を差し出したら
いただきます
とコップを丁寧に傾ける
ものだから
あっ、どうぞ
なんて
俺まで緊張してしまう

息子が
社会に飛び立ったことを
実感しつつ飲む
今晩のビールは
何だか
よそ行きの味がする

酔うほどに
正座は胡坐になり
私は
僕に
時折、俺になる

働いて
パパの
大変さが分かったよ

真っ赤な顔の
息子が
握手を求めて来る

何を
偉そうに

もちろん
悪い気はしないので
更にビール瓶が並ぶ

これで
お終いですよ

妻の
声が
ぐるぐる回って
聞こえる
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