転んだ老婆(2022.1.20)

文字数 372文字

老婆が
目の前で
転んで動けない

みんな
見て見ぬふりで
歩き去っていく

当然だ
会社に遅れてしまう

僕が
ここで
行き去れば
誰かが
いつか
通報するだろうが
いつになるのかは
分からない

足を
挫いたようで
立ち上がることも
難しそうだ

会社に
遅れると
連絡を入れ
背負って
派出所を目指す

背中に
名前が書かれた
老婆は
悪いねぇ
とあっさり
僕の背中に乗った

アツさん、ありがとうねぇ
アツさん、ありがとうねぇ
と耳元で繰り返す

旦那さんなのか
息子さんなのか
分からないが
僕を誰かと思い違いしている

直ぐに
寝息を立てる
きっと
歩き疲れたのだろう

背中の名前が
祖母と同じだったのだ

僕は
祖母を背負ったことが
一度もないのだけれど
こんなにも
安心して身を任せて
くれることが
とにかくうれしい

派出所は
交差点を渡った先だ

祖母は
二年前に
亡くなった

老婆が
あまりにも
気持ち良さそうに
眠っているので
交差点を渡らず
もう少し歩くことにする
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