ひとり遊び~木曜日の小景~(2023.8①)

文字数 761文字

今から学校まで
両足着いたら負けだからな

うん、分かった
けど、押したら反則負けだよ

今日は
ラインを踏んでも負けにしない?

うん、分かった
けど、押したら反則負けだよ

ランドセルの男児二人が
遊びを始めるのを聞いて
おじさんも仲間に入れて
なんてことは言えないから
ひとりで遊ぶことにする

今は
信号機が
青になるのを
待っているところ

軽く
右足を
上げて
準備オーケー

青に変わり
渡り始めたふたりの
背中を
追いかける

片足けんけん
でなくても
両足着きにならないように歩けば
問題ないらしい

それに普段
ラインを敢えて踏むことはないので
そんな決まりにしなくても
ラインを踏むことなんてないはずだ

ところが
足元を見て歩き
両足着きに気をつけ
時折 人の気配を感じては
視線を上げ
また下を見るとリズムが崩れて
思わず踏みそうになり
無理して避けると
更にバランスを崩してしまう

横断歩道は
ライン遊びにもってこいだ

 なかなか
 楽しいぞ

両足着きせず
ラインを踏まないという
単純なひとり遊びなのに
踏んではいけないと思えば思うほど
踏みたくなったり
危険を冒して
踏みそうで踏まないギリギリに着地する

 無茶苦茶
 面白いじゃん

 大丈夫っすか?

後ろから
肩を掴まれてラインを踏んでしまう

 あっ、しまった

しかも
両足立ちになる

振り返り
思い切り
睨みつける

 体調悪いんですか?
 ふらふらしていましたよ

上司思いの部下だから
許してやろう

反則負けだからな
とは口にせず
あぁ、ちょっと寝不足で
と誤魔化す

 今のは反則だから
 セーフとする

プレーヤー兼レフリーなので
ルールをめぐって揉めることはない

睨まれて
苦笑いしている部下に
今から会社まで両足着きしたら負けだからな
と言ったら
どんな顔になるだろう?

今日は外では両足を着けず
ラインを踏まない
と決める

ひとり遊びしながら
得意先回りしたら
良い話もありそうだ

部下に
気づかれないように
そっと
右足を
上げる
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