別人(2023.2その他③)

文字数 630文字

連絡をもらって
懐かしい場所で
待ち合わせ

メールばかりで
会うのは
随分と久しぶりだ

別人のような君がいた

メールでは
ただ一言
久しぶりに会えないか?
それだけだったのに

僕は
どうしたの?
とも言えずに
立ち止まっている

歩きながら話そう
悪いけど
車椅子を押してくれないか?

何から聞けば良いのか
分からないまま
車椅子を押す

説明する時間もないから
結論だけ先に言う
今まで、ありがとう
メールではなくて
会って
言いたかった

僕等は大学生の頃に
一緒に歩いた街を
ふたたび一緒に歩く
左右ではなく前後で

知らない店ばかりだけれど
そんなことはどうでも良くて
二人で歩けば
学生の頃に戻る

お金がなくて
缶ビールを買って
いつまでも話した公園が目的地で
そこには
エコバッグを手にした
君の奥さんが待っていて
僕は車椅子を交代した

缶ビールを開け
三人で乾杯する

君は美味しそうに
一口飲んで

これが、僕のやりたかったこと

奥さんに
うれしそうに微笑んだ

二人がとても幸せそうだったので
僕も笑った

大きな体は小さくなり
缶ビールも重そうだけれど
君は何も言わない

たぶん、
会うのは最後だから
握手しよう

君が手を差し出すので
僕は握手したくなかったけれど
握手する


二人を見送り
君の飲み残したビールを
ひとり飲む

またね
ありがとう
さようなら

なんて言うのが正解だったのだろうか?
結局、何も言えなかった
ビールの苦味が口に満ちて
初めてビールを飲んだ日を思い出す

あの時も
君と一緒だった

長いつき合いになりそうだ
よろしく

手を差し出す君と
握手した公園で
僕は時間の短さについて考えている
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