実家に戻る(2021.7月+α)

文字数 397文字

好物だったものが並ぶ
今の好物とは違う

僕は五十歳になりました

ハンバーグ
唐揚げ
たこウインナ
ハンバーグとウインナにはケチャップ
唐揚げにはマヨネーズ

母は過去に生きている
年齢ではなく
年齢差で息子を認識している
二人の年齢差が
縮まることはない

いただきます

変わらない
あの頃のままだ
盛り付けも
味も
あなたの優しさも

母は過去に生きているから
仕事を失ったことも
家庭が壊れたことも
好物が変わったことも
知らないでいい

ごちそうさま

ティッシュボックスを渡される
口元がだらしなくて
いつもケチャップやマヨネーズで汚れるのだ
五十歳になった僕は
何が変わって
何が変わらないのだろう?

はい、お駄賃

母が千円札を差し出す
毎週、ペットボトルを手に実家へ戻る
健康の水と言って渡すが
中身は水道水だ

いつも、悪いね

財布にしまいながら
密かに思う
全てお見通しなのではないか、と

一食浮かせるため
千円のため
母に会うため

嘘の上塗りをして
僕は過去にしがみついている
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