探しもの(2024.1②)

文字数 462文字

新幹線から眺める鉄塔や電柱が巨きな人に見えたのは
宮沢賢治が描いた電信柱男が頭の片隅にあった
からかもしれない

寝不足のまま目覚めた眠気眼だったから
夢と現の境がなくなり
想像力が本気を出した
のかもしれない

目を閉じると
鉄塔や電柱が動き始める

家を壊さないように
人を踏まないように
気を遣いながら歩く
優しい巨人たち

閉じた瞳が
ふいに濡れる

僕は賢治に憧れ
ほんたうのさいはひ
を探したのではなかったのか?

まだ見つかっていない
いや、探すことを諦めてしまったのだから
見つかるはずがない

自分が苦しくて
目を開ける

京都から東京へ向かう
のぞみ214号 7号車10列E

雪を頂いた富士山は
全身に陽を浴びて
今にも動き出しそうだ

賢治よりも随分と長生きしたのに
いつまで経っても
うだうだしている自分が恥ずかしい

まだ間に合うだろうか?

やはり僕は
ほんたうのさいはひ
を探すことを諦めたくない

諦めが早いのに
諦めが悪いのが
僕なのだ

鉄塔や電柱が歩くのなら
僕だって歩けるはず


※電信柱男…月をバックに歩く1本の擬人化された電信柱を宮沢賢治が描いた水彩画で正式名称は「月夜のでんしんばしら」
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