消える(2023.2.5)

文字数 626文字

臭いを消す商品を、あちらこちらに置いている。玄関、靴箱、リビング、寝室にトイレ。洗濯機の横にも大きなボトルが。独り暮らしだから、臭いの元は一人しかいない。もちろん、生ゴミ由来もあるのだろうが、私は臭いを消すため、あれこれ買い試す。

臭いを消すことに必死な私は最近、声を掛けると良く驚かれる。背後から大きな声を張り上げる訳でもなく、忍び足で近寄るでもないのに。いつもの席に座っていても、気配を消さないで下さいと言われることが増えた。私は臭いを消したからだと満足していたのだが、常務から部下が怖がっていると注意され、消臭剤を芳香剤に変え、さらには柑橘系の香水を軽くふるようにした。すると、気配を消していると文句を言われることはなくなり、自身を臭いと思うこともないのだが、匂いが存在感を増し、気分が優れない。

もともと存在感が薄いのに、臭いを消したから、気配が消えたのだ。私が消したかったのは、臭いではなく私なのかもしれない。

残り少ない会社生活のため、と割り切ったつもりだったが、やはり納得できず、芳香剤を消臭剤に戻し、香水をやめる。

いよいよ、私は行方不明になる。願い通り、私は見事にきれいさっぱり消えた。部下から、気配を消さないで下さいと再び言われるようになったが、例え社長に呼び出されてももう気にしない。私は私を消したくて消したのだ。臭いが消え、私が消え、お金もだいぶ消えた。そろそろ、私を消した私も消える頃合いなのか、日毎、鏡に映る私は薄ぼんやりしていく。
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