雨の日、君と傘(2021.8.28)

文字数 386文字

雨になると
君を思い出す

最近
私は折り畳み傘が
あるけど

そもそもの
きっかけは
もう忘れた

気づいたら
君が
転がり込んでいた

家賃は払わず
生活費をもらい
何もしないくせに
雨になると
駅まで迎えに来る

働きもせず
遊びにも行かず
私の部屋で過ごすだけの
見た目は若いが
三十過ぎのヒモ男

忠犬のように
私が改札を出るのを
じっと待つ君が
私は嫌いではなかった

でも
追い出した

料理も
掃除も
洗濯も
買い物もできず
ゴミ出しすら任せられない

今頃になって
雨の日は
君の誠意だったのだと
気づく

君を追い出してから
しばらくして
折り畳み傘が届いた

最初で最後の
贈り物

もう迎えに行けないので
濡れないように

メッセージを読んで
腹立たしくて笑った

だって
私のお金で買った
贈り物だから

追い出した
きっかけも
忘れてしまった

たぶん
今日も君は
どこかの駅で
ビニール傘を持って
違う誰かを待っている

そんな気がして
君がいた場所で
折り畳み傘を手にしたまま
私はひとり佇む
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