廬山寺(2023.11③)

文字数 373文字

紅葉が薄っすらと
色づき始めた庭には
桔梗が咲いている

紫が
優しい

いつも
ひとりで
訪れる
源氏庭に
今日は
妻とふたり

京都市内の中央にあるのに
静かで時を忘れる

いつも
ひとりで
眺める
源氏庭を
今日は
妻と眺める

単身赴任中の夫が
お気に入りの廬山寺は
京都御所東に建つ

言葉なく
ゆったりと
時に
たゆたう

紫式部が
源氏物語を
書いた邸宅址で
僕は
僕らの
出会ってから
今までを
思い返す

ざっと
三十年

あっという間
だった気がする

紫式部が
生きた
場所で
僕は
僕らの

これからを
思い描く

ざっと
三十年

あっという間
だろうな、きっと

だから
今を大切に

だから
ふたりの時間を
大切に

桔梗を眺める
ふりをして
妻の横顔を見る

十月の休日
午前十時
他に人はいない

紫の花は
僕らのために
咲いている


※廬山寺…天台圓浄宗の大本山。天正元年(1573)に紫式部邸宅址(紫式部が『源氏物語』を執筆した地…京都市上京区寺町広小路上る)に移転した。
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