カナブンと私(2021.12.23)

文字数 322文字

足元に
カナブンが
転がっている

妻が出て行った朝から
ずっと
仰向けのまま

夏の終わり
蝉が騒がしかった

あの日から
弔いもせず
放ってある

死骸を
なぜか
捨てようとは
思わない

カナブンに
とっては
大いに
迷惑だろう


もう
いい加減
捨てて欲しいのか

近くの
地中に
埋めて欲しいのか

あるいは
このまま
冬を越したいのか


毎朝
靴を履きながら
カナブンに
話しかけるが
返答はない

夏の終わりに
雪国の実家へ
戻ったきり
妻は
帰って来ない

このまま
冬眠を
決め込むつもり
なのだろうか

それにしても
どうやって
カナブンは
家の中に
潜り込み
死んだのだろうか

いや、待てよ
死骸ではなく
冬眠なのかもしれない

カナブンが
妻と重なる

いや、違う
カナブンは
私だ

あの日から
ずっと
仰向けのまま
転がって
飛ぶこともできずに
その日を
待ち続けている
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