アクリル板の存在意義(2022.5.19)

文字数 452文字

人の眼を見て
話すことが
できない僕は

人の眼を見て
話すことが
できない彼と

喫茶店で
向かい合い
スマホ画面を通じて
話している

飛沫防止のため
テーブルを分断する
アクリル板は
存在意義を失くす

時折 画面を見ながら
笑う二人を見て
店員が足を止めるのは
不審な客として
注視されているからだろう

僕らは
眼を見て
話すことはできないが
同じ空間に居たいのだ

アクリル板の向こうから
笑い声を
聞くと心が安らぐ

 ねぇ
 顔を上げてみて

心を決めて
僕は
話しかける
 
 えっ?
 
 いいから
 顔を上げてみて

彼は
画面から
ゆっくりと
顔を上げる

僕は
彼を
見ている

彼も
僕を
見ている

知り合って
五年以上過ぎたが
初めて
眼が合った

今朝 
顔を洗った時に
ふと 気づいたのだ
鏡の中の自分と
眼が合っても
大丈夫であることに

アクリル板に映る
自分と眼を合わせて
彼の眼を見れば
怖くないはずだと

 信じられない
 君と目が合うなんて

彼は
ひどく
興奮して
泣き笑いする

テーブルを分断する
アクリル板は
新たな存在意義を得た

アクリル板は
僕らをつなぐ

いつか
アクリル板が
取り払われたら
僕らは
アクリル板を
持ち歩けばいい
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み