生きるものたち(『冊』Vol.68)

文字数 277文字

子泣く
 暑き朝

癇癪も
仕方あるまい

うだるような
空気が
肌を覆えば

蝉鳴く
 騒き朝

地下鉄の階段壁で
オスが一匹
命懸けで腹を震わす

階段には
死骸が
ふたつ
転がっている

避暑地の
恋は
成就したのだろうか

地下へと
つながる空間に
鳴き声が響く

負けじと
泣き声が響く

通勤前に
保育園へ向かう
若い母親は
首筋に汗を流しながら
子を抱え
大きなバッグを背負って
子を宥め
改札を通り抜ける

扇子を手に
後ろを歩く私は
何だか
申し訳ない気持ちになる

鳴くことも
泣くことも
なく

だが
汗はかく
そして
喉が渇く

慌てて
鞄から
水筒を
取り出す

もう
熱中症は
こりごりだから

冷えた
麦茶を
ゆっくりと
流し込む

私も生きているのだ
私の精一杯で
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