ぼっちランチ(2024.4①)

文字数 559文字

会社から離れたお好み焼き屋で
文庫本を読みながら
焼きそば定食を待っている

やけに
周りが騒がしい

文字から
目線を逃がすと
僕だけ一人ぼっちで
あとは女性二人連れが三組

みんな一斉に喋るから
だんだんと声が大きくなるのだ

夫の愚痴
物価高に対する不満
内閣総理大臣への批判
大谷翔平の結婚話

誰が喋っているのか分からないが
どれも良く通る声だ

内容はないから
安心して聞き流せる

僕の焼きそば定食が先に到着したが
誰も見向きもしない

店主が立つカウンター鉄板を見ると
六人全員がお好み焼き定食らしい

焼きそばに比べると
お好み焼きは時間がかかるから
しばらくは雑談に花が咲きそうだ

気づけば三組とも
花粉症の話題で盛り上がっている

どこの病院が良いとか
あの市販薬はまったく効かないとか
少し高いけど漢方がおすすめだとか
生姜と蜂蜜を蕎麦茶で割ると咳が楽になるとか

仲良く全員が
花粉症なのだろうか?
僕はやはり仲間外れだ

お好み焼き定食が次々と
各テーブルに置かれると
急に静かになる

かつお節
青のり
マヨネーズ

それぞれの装いが終わると
また一斉に始まる

コテを使って
ふぅふぅしながら
食べて喋って笑う

一人が
すみません、生ビール
と店員に声を掛ける

私も
 わたしも
  ワタシも

僕は仕事なので
ビールは飲めない
やはり 一人だけ仲間外れだ

 すみません
 お冷 おかわり

会話にかき消されて
僕の声は店員には届かない
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