23話 担任逮捕の理由

文字数 1,313文字

 家に帰って、私が何かを言う前に母が「大丈夫だった?」と聞いてきた。
「テレビがいたけど、何があったの?」
 私は早速聞いたが、母は「新聞を読めばわかるわよ」と言った。
 当時は全国紙をとっていた。全国紙の中の地方の紙面に小さくその事件は載っていた。
 簡単にいうと、『担任が部活動で女生徒に手を出した容疑で逮捕』されたのだった。

 それを読んで納得してしまった。
 という事は、クラスメイトの女子の涙は「そんな訳がない」という事だろうか。
 私は全く逆で、担任が夏休み前に行ったセリフを返したいと思っていた。

「ばれたら面倒だから、要領よく出来ないならやめておけよ」

 バイトの話で毎年、担任はそう言っていたのだ。
 でもこれは、裏を返せば「ばれないと思うなら、何をしてもいい」とも取れる。
 担任はやっていたと思うかと聞かれたら、即座に「思う」と言える。
 担任への信頼や信用度はほぼゼロだった。

 母が言っていた「嫌な感じ」というのも、そんな意味だったのだと思う。
 ただ、証拠はない。

「ホントびっくりしたわよね。今朝は忙しかったから誰もテレビも新聞も見ていなかったし。
ホタルちゃん(従姉妹)の家の新聞は地方紙だから、もう少し詳しく載ってたらしいわよ」
 母がそう言った。
 ホタルちゃんとは母の姉(伯母)の家の事である。
 私は母にプリントを渡して、『緊急保護者会』がある事を伝えた。

 夕方になると母は保護者会に行った。
 夕食のテレビのニュースでは担任の事件も出てきた。テレビの中では誰かがインタビューに答えたらしく、「信じられません」なんて事を言っていた。
 私は心の中で「信じられる」と突っ込んでいた。

 母が保護者会から帰ってきた。
 そして、「担任がかわるらしいわよ」と言ってきた。

「え?聞いていないケド?」
「近所のお(じい)さんが、担任をこのままにするのか!!とすごい剣幕(けんまく)で、校長が押されて替える事にしたみたい」
「なんで、近所のお(じい)さん?」
「自分で名乗っていたから」

 確かに私が通う高校は、地域の人の声があって建てられた。
 地域の人だから無関係というわけでもないと思うし、もしかしたら、孫や子供が昔通っていたかもしれない。

 そんな感じで副主任が急に担任になった。卒業までのこり半年を切っている。
 受験の準備にも追われている。終わっている人もいるが、まだの人もいる。
 正直、この時期にいきなり担任を負わされた副主任もたまったものではなかっただろうと思っている。

 私としても、半年だけの先生が卒業アルバムに残るのは何とも言えない気分だった。
 かと言って、元担任との卒業アルバムはもっと嫌だったろうとも思う。


 次の日に学校に行くと、もっといろんな情報が飛び込んできた。
『別館に連れ込んで……』『ストレッチの時に……』『卒業生が訴えたらしい』etc.
 やけに具体的な(うわさ)とも事実とも、とれない情報が飛び交っていた。
 どこまでが事実なのか分からないが、その方法なら可能だよねという事は理解した。
 訴えたのが卒業生という話もあったが、転校した……という話も飛び交っていた。
 在校生が訴えるのは不利になるという話から、卒業生という話が出ただけかもしれない。

 事実は最後まで分からなかった。
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