5話 無視と嫌い

文字数 1,049文字

 私はこたみちゃんを通して、いろんな子達と話すようになった。
 海ちゃんと風ちゃんは、お勉強もスポーツもできるクラスの人気者だった。
 そこになぜか、私が混ざってしまった。
 どこをどうして、海ちゃんと風ちゃんと私という組み合わせができたのか、いまでも謎に思う。
 とにかく3人で遊んだり、何かをすることが増えた。
 こたみちゃんはと言うと、海ちゃん風ちゃんをあまりよく思っていなかった。
 誰とでも仲良くしてしまうこたみちゃんが、「特に風ちゃんはちょっと」という理由を私は知っていた。

 それは音楽の時間。
 グループで楽器の発表をすることになった。
 私は風ちゃんに「一緒にやろう」と言われて入った。
 そして、風ちゃんが他の子にも声をかけてグループができた。
 こたみちゃんも、やってきて「一緒にやってもいい?」と風ちゃんに聞いた。
 それを風ちゃんは無視した。

 他の子が見かねて、「入れてあげたら?」と言ってみても、聞かなかった事になった。
 こたみちゃんは、とりあえずグループに入った。
 けれど、風ちゃんは最後までこたみちゃんを無視して、発表が終わった。
 周囲がみんな首をかしげていた。
 風ちゃんがこたみちゃんを嫌う理由がないし、誰かを仲間外れにするような子でもなかった。

 私は、なんだか居たたまれなかった。
 こたみちゃんは私にも「一緒にやっていい?って聞いてみて」と言っていた。
 けれど、私は風ちゃんが無視することを知っていたから、聞かなかった。

 風ちゃんが最初に私を誘ったときに言ったのだ。
「こたみちゃんって、何だか嫌だよね。グループに入れなくてもいいよね」
 と……なぜ、風ちゃんがこたみちゃんを嫌っていたのかは知らない。
 ただの相性の問題なのか。風ちゃんの機嫌が悪かっただけなのか。

「え?私は……別に……(嫌いではない)」
 と言おうとしたところで、「嫌な子でしょ。一緒のグループなんて嫌でしょ」と畳みかけられた。
 風ちゃんらしくないなと思った。
 もっと言うのなら、怖かった。

 風ちゃんは明らかに私の同意を求めている。
 ここで『嫌じゃないよ。誤解じゃないの?』と言ったら、仲間外れにされるのは私だ。
 という事を理解してしまった。
「……う。うん。そうだね」と私は返してしまった。
 風ちゃんは満足してそれ以上は何も言わなかった。

 ただ、風ちゃんがこたみちゃんを露骨に無視したのは、この時だけだった。
 その後も誰かを仲間外れにしたり、無視する事はなかった。

 その時なぜ、彼女がこたみちゃんを無視したのか、分からない。
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