16話 小学校最後

文字数 833文字

 それは小学校最後の日。
 私は、臆病なひねくれ者になっていた。

 教室に行くと、黒板に絵が描かれて、いろんな飾りつけがされていた。
 それまでの教室とは別のように見えた。
 ぐるっと見回して、気がついた。
 教室の後ろに、クラスメイト全員の似顔絵が飾ってある。
 私は、嫌な気分になった。なるべくそちらを見ないように、一日が終わる事を祈った。

 卒業式が終わって教室に入ると、先生が来るまでしばらく時間があった。
 飾りを見ていたり(しゃべ)ったり、皆が好きにしていた。
 私は座っていた。何かを見たいと思わなかったし、早くこの場から立ち去りたかった。
 こたみちゃんが私の傍にやってきた。
「あっちに、皆の顔が描いてあるよ。下級生たちが描いてくれたんだって。見に行こう」
 私はさっき見た似顔絵の方に少しだけ視線を向けて、すぐに前を見た。

「行かない」

 断られるとは思っていなかったこたみちゃんが、「なんで?」私に問う。
「何ででも!!嫌なの」
 思ったよりも強い拒否になってしまった。
「……そっか」
 一瞬、驚いた顔をした後、こたみちゃんは他の子とその似顔絵を見に行った。

 私は自分の顔が、かわいいとは思っていない。
 父が、散々「かわいくない」と言っていたからだった。
 かわいくない私の顔の似顔絵なんて、見たくなかった。
 それがただの思い込みだと知ったのは、ふとした拍子に自分の似顔絵を見つけてしまったからだ。
 私の想像よりかわいく描かれているそれは、私が『かわいくない似顔絵』と勝手に思っていただけだったと思い知らされた。


 小学校最後の通知表には、
「いつか、大輪の花になるでしょう」
 というコメントが添えられていた。

 大輪の花がどんな花なのか、全く想像もつかなかったし、皆にそう書いていたのかもしれない。
 母は「良いことが、書いてあるわね」と言った。
 小学校最後の先生を、母がとても気に入っていたという事もあるのかもしれない。
 母が(うれ)しそうなので、私は『大輪の花になる』を良い言葉として受け取った。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み