6話 不妊治療の副作用

文字数 927文字

 父と母は、結婚後に父の家に入った。

 結婚した女に向けられる言葉と言えばこれしかないと思う。

『子供はまだなの?』

 今、そんな事を言えばハラスメントになるが、母の時代は『ハラスメント』なんて言葉さえない。
 悪意もなく「子供はまだなの?」という言葉をぶつけられる。
 母も例外なく浴びせられた。
 そして、母には子供が出来なかった。
 そのうち、父の親から「お金を出すから治療をして来たら?」と言ったような言葉が出てきたらしい。
 母は家に居たくなかったのもあって、治療することにした。

 母は治療で排卵誘発剤を使った。
 今では副作用も知られていると思うが、当時は副作用の説明も何もなかった……らしい。


 ある夜、母は具合が悪くなって父に病院に連れて行ってもらった。
 父は母の症状を軽く見ていた。のろのろと遅くしか動けない母に「早くしろ」と急かしていたらしい。
 病院に到着して、血圧が測られる。

『計測不可能』

 慌てだす医者の態度に、父は真っ青になっただろうと思う。
 結局、その病院では対応ができず、大きな病院へ救急車で行く事になった。
 母の初めての救急車である。

 検査の結果、母の卵巣がパンパンに腫れあがっていた。
 母は卵巣を一つ摘出した。

 医者は「こんな症例は珍しい。学会に発表する」と言っていたらしい。
 母にとってはそれどころではない。
 片方の卵巣をなくしたのだ。

 医者は「まだ、一つはあるから子供は産める」と言っていたらしいが、母は信じなかった。
 不妊治療はそこで終わり。
 母は子供の居ない人生を父と二人で生きていく事を考えた。




 家に戻った母に、父の親は冷たかった。
「戻って来なくてよかったのに」といった言葉を投げられたらしい。

 やがて、父の父(祖父)が母の寝床に忍び込むようになった。
 父が仕事で遅い時などを見計らっていたのだろう。
 母は父にその事を訴えた。
 父は信じなかった。自分の親が自分の妻にそんな事をするなんて、信じられなかったのだろう。
 母は父の家に嫌気がさして、出て行った。


 家を出た母に父は付いてきた。
 父は家よりも母を取った……のかもしれない?
 次男坊だから、やがて追い出される事を見越していたのかもしれないけれど。


 心機一転、二人だけの生活が始まった。
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