22話 担任がいない

文字数 1,035文字

 教室内の空気はもっと異様だった。
 泣きだしている女子がいる。あちこちで(ささや)き声が飛び交っている。
 けれども、具体的な話は全く分からない。
 が、教室の空気が『悪い事はこの教室内の出来事』という事を伝えてきた。
 ホームルームにやってきたのは担任ではなくて、学年副主任だった。
 ここまで来ると『担任が何かをした』ということまで理解できてしまう。
 けれど、私がこの先を学校内で知る事はなかった。

「この後、全校集会があります。説明はそこでされます」
 副主任は涙の跡を見せないようにしながら、そう言った。
 私はそこで説明されて、全容が分かると期待した。期待したが、そうはならなかった。

 なぜなら、『全ての出来事を全ての生徒が知っている』という前提で話が進んだからだ。

 事件の詳細について話される事は一度もない。
「皆さんも知っているように……」という、決まり文句から始まった校長の話。
「驚いたでしょうが、私も非常に驚いています」
「マスコミの取材には応じないように」
「皆さんは気持ちを落ち着けていつものように、学校生活を送って欲しいです」
 知りたい情報は一切出てこず、ありきたりな言葉で校長の話が終わった。

 それはその後も同じだった。
 教室に戻った後の副主任の話もほぼ校長と同じで、事件の話は分からない。
「この後、個人面談を行います。不安な事があれば言ってください」
 その後は自習をしつつ、面談の時間を待つということになった。

 面談で聞きたいことはたった一つ。何があったのかだった。
 私の順番がやってきて、相談室のような場所で副主任と一対一になった。
「何か不安なことなどありますか?」
 と副主任がきく。
「何があったのか分からなくて……」
 と私が言うと、副主任は……

「そうよね。まだ混乱しているものね。でも、大丈夫よ」
 と、優し気に返してくれた。

 ……違う。違うんだけど……と、私は戸惑った。
 しかし、もともとお(しゃべ)りが苦手な私は、これ以上話す気力を失くした。
「他には?」と聞かれたので、受験を終えたばかりの私は
「受験に影響しないか不安で……」
 と答えていた。

 丸一日以上かけて受験をしに行ったのに、影響なんてしたら困ると本気で思っていた。
「大丈夫よ。それは影響はないから」

 今になって思えば、県外の学校なのだから、この事件が影響することは、なかったと思う。
 県内ではニュースだが、全国ニュースになるほどの大きな事件ではなかった。


 放課後はさっさと帰れと言うので、相談室には寄らずに帰った。
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