7話 お友達

文字数 1,830文字

 いじめから身を守るために出来ることは、三つ。
 一つは、お嬢様に気に入られないようにすること。
 お嬢様が気に入るのは、大人しくて優しそうな子とお(しゃべ)りが得意で面白い子。
 スズメちゃんは後者だった。

 二つめは、目立たないようにすること。
 お嬢様は自分が一番目立ちたいタイプだったので、お嬢様より目立つ子がいるとターゲットにされる。

 三つめは、お嬢様にむやみに近づかないこと。
 物理的に距離を取る事が一番手っ取り早かった。
 席替えの時に気になるのは、どれだけお嬢様から離れた席かだった。
 隣になると地獄でしかない。


 取り巻きのスズメちゃんには、あまり近づく事が出来なくなった。
 スズメちゃんに近づくという事は、お嬢様に近づくという事。
 お嬢様は取り巻きが他の人と(しゃべ)っているだけで、不機嫌になった。
 そんなリスクを背負ってまで、スズメちゃんに近づきたいとは思わなかった。

 そんなわけで、私はスズメちゃん抜きで近所の子達と遊ぶようになった。
 休憩時間もくくちゃんやりりちゃんと集まるようになった。
 やがて、くくちゃんやりりちゃんから「音楽(音符?)」を教えてもらうようになった。
 理由は、「授業中うるさくて、よく分かんないよね」みたいな事からだったと思う。
 教えてもらうと言っても、紙に音符を書いて意味を教えてもらう程度だ。
 ピアノが弾ける様になるというようなレベルではない。
 けれども、ちゃんと枠線を引いて、見本を書いて、ホチキスで止めた小さな冊子にしたワークブックを作ってくれた。
 くくちゃんだったか、りりちゃんだったか、どちらがそれを作ってくれたのか忘れたが、なかなか手間がかかっていたんだなと思う。
 教えてもらったけれども、音符は今でも分からないままだ。



 学校の前に駄菓子屋があった。
 駄菓子屋と言っても、ノートや消しゴム、鉛筆といった文房具も売っている。
 ある日、くくちゃんが「お小遣いを(もら)ったから、何でも買ってあげる」と私を駄菓子屋に誘った。
 何でもと言っても、何を選んでいいのか分からない。
 駄菓子もある事は知っていたが、私はそれまでノートを買うためにしかその駄菓子屋に入った事がなかった。
「本当にいいの?」
「大丈夫だよ。何でも選んで」とくくちゃんが言う。
 とりあえず、適当に一つ選んだ。
「それだけ?もっといいけど」
 くくちゃんがいくら持っているのか分からない。何をどれだけ選んでいいのかもわからない。
 けれども、いいというのだから、いいのだろうと思って、またいくつかを選んだ。
 すると、駄菓子屋のおばちゃんが怖い声で言った。
「あんたね。人にたかっちゃダメよ。あんたも、買ってあげようとしちゃダメ」
 その声で私とくくちゃんの間の空気が気まずくなった。
 結局、私が選んだ最初の一つと、くくちゃんが買おうとしたものだけを買ってさっさと店を出た。


 帰りも近所の子達と一緒に帰っていた。
 ある雪の日。
 たしか、くくちゃんとみーちゃんと一緒だったと思う。
 誰が言いだしたのか忘れたけれども、
「こっちから行こうよ」
 と、脇道から帰る事にした。
 脇道と言っても舗装はされていない農業用の道だった。
 もちろん、除雪もされていない。
 雪は小学二年生の下半身がすっぽり埋まるくらいには積もっていた。
 そこを小学校二年生がズボッズボッと雪に埋まりながら進む。
 気が付いたら、日はとっぷりとくれて辺りが薄暗くなっていた。
 家に近づくと、くくちゃんのおじいちゃんの姿が見えた。
 そして、怒られた。

「こんな時間まで何をしていたんだ」

 くくちゃんはもちろん、一緒に居た私たちもまとめて怒鳴られた。
「あんたたちも、家の人が心配するだろう」
 その言葉で、ああ、心配でここまで来たのかと思った。
 そこからはくくちゃんはくくちゃんのおじいちゃんと一緒に帰っていった。
 私はすぐ傍の自分の家へ。みーちゃんもみーちゃんの家の方向へと向かって 歩いていった。
 家に入ると、母は「遅かったわね」とだけ言った。
 くくちゃんのおじいちゃんに怒られたことを伝えると
「そうなの。別にまだいいじゃない。そこまで遅くもないし」
 と母はさして心配した風でもなく言った。
 冬の日が落ちるのは早いので、辺りはすでに暗かった。
 小学二年生が出歩く時間ではないが、母にとってはそれほど気になる事でもなかったらしい。


 話は少し戻って「十ヵ月の2話」で、私が道路に出て泣いているのをみつけたのが、くくちゃんのおじいちゃんだった。
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