13話 真冬の道

文字数 821文字

 雪の降る頃だった。
 学校のベランダに出ていると、雪が舞い落ちてきた。
 ベランダに背中を預けて、空を見上げる。
 落ちてくる雪が、私を素通りして通り過ぎて行く。
 まるで、自分の体が浮かんでいるような感覚に襲われた。
 その中で、

『今、この瞬間にここから落ちて死ねたら、幸せ』

 と思った。

 その後も冬になると自殺願望……もしくは、希死概念が高まった。
 今から考えると、ただの日光不足による精神の不安定さなのかもしれないけれども。


 高学年になって登校班の班長を任されるようになった。
 けれど、私は何もかもが嫌だった。
 私は班長の役割を放棄して、一人で学校に行くようになった。
 わざと遅刻ギリギリまでゆっくりと準備して、班に混ざらずに行っていた。

 とある雪の日。全てがどうでもよくなった。

 いつものように班から遅れていく。
 さらに本当に誰も見えなくなるくらいまでの距離をとって、ゆっくりと学校に向かった。
 学校に向かいながら、このまま別の場所へ行きたいなと思った。
 通学路の途中には幅二メートルぐらいの用水路がある。
 ここに入ったら、学校に行かなくていいなと思った。
 長い時間、用水路とにらめっこをしていたような気がする。
 用水路脇のガードレールに積もった雪の壁を越える気力がなかった。
 私は学校に行った。

 学校に行ったら、ちょっとした騒ぎになっていた。
 私がいないという事で、クラスメイト皆が探しに出ていたらしい。
 悪い事をしたとか、申し訳ないなという感情が出てこない。皆、バカな事をしているなと思った。
 でも口先では「申し訳ありませんでした」と言うような言葉が出てきた。
 先生は私の家にまで確認の電話を入れたらしい。

 理由を聞かれて『雪道で普段より時間がかかっただけ』と、私は言った。
 先生にも親にも同じことを言って、納得させた。「大丈夫」と言って笑えば、それで終わりだった。
 怒られる事はないし、それ以上の追及もない。

 ただ、遅刻をしただけの話。
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