1話 私の誕生

文字数 1,454文字

 母は片方の卵巣を失って、子供を諦めた。

 諦めてしばらくしたころ、妊娠が発覚した。
 父と母が結婚して9年目の事だった。
 それが、私。

 母にとっては信じられない事だったらしい。
 おなかの中にはエイリアンがいると思ったそうだ。


 私が生まれたのは真冬だった。
 雪国の真冬。そして、真夜中。
 道はもちろん雪道である。
 車も雪の中だったので、父は必死で雪をかき分け車を出したらしい。


 産声は上がらなかった。
 医者が私を逆さまにしてたたいて、やっと産声が聞こえたらしい。
 そして、生まれた私は母の腕ではなく、父の腕に抱かれたらしい。
 母は『どうして、私が先じゃないの??』と思ったそうだ。

 予定日よりも少しだけ早く、平均体重よりも少しだけ小さく、私は産まれた。
 産まれて半日、保育器に入っていたらしい。

 私を抱いた母は、私の手首の変異に気が付いた。
 そして、それをずっと気にしていたらしい。
 周りは「そのうち、気にならなくなる」と言ったそうだが、初めての子供に変異がある。
 母としてはとても気になったのだろう。
 もちろん、大人になった今もそれは私の手首に残っている。
 が、それで何か言われたことはない。
 ただ、脈拍を計るためにこの手首をうっかり出してしまった時に、「どうしたの?」と聞かれたくらいだ。
 私は「生まれつき」だと答える。
 日常で他人が気が付くほど大きな変異ではない。


 私の名前は祖父(母の父)がつける……と言ったそうだ。
 これを父が断った。そして、テレビで見た有名人の子供と同じ名前が付けられた。(漢字は違う)

 私は成長が遅かった。
 妹たちは三カ月ぐらいで首がすわったが、私は半年ぐらい首がぐらぐらしていた。
 ハイハイも歩きだすのも遅かった。
 けれど、母乳断ちは早かった。
 母が次の子供を身ごもったから私は半年で母乳を断ち、早々に離乳食へと切り替えられた。
 しかし、何を試しても食べなかったらしい。
 ただ一つだけ食べたのが、ヨーグルトだったのでそれを毎日食べていたという。
 心配になった母が、「ヨーグルトだけを食べさせているけど、大丈夫なのか?」とヨーグルトの会社のサポートセンターに聞いてみたらしい。
 返事は「たぶん、大丈夫だと思いますよ」と曖昧なものだった。

 ある時、ぴたりと食べなくなった。
 理由は知らない。そもそも私には食べていた記憶もない。
 今はヨーグルトを一切食べない。嫌いなのである。
 お腹を壊したのでは?という話もあるが、何が事実なのかはわからない。


 いくつの検診の時は分からないが、私が小さな頃。
 検診の時に片づけをやり始めたらしい。
 皆がおもちゃを遊ぶところで、おもちゃがあちこちに落ちていた。
 それを拾って箱に入れていたらしい。
 母は「そんな事をしたのは、あんただけ」と言っていた。
 記憶にないので、それが『遊び』だったのか『片付け』だったのかよく分からない。
 『遊び』だとしても変わった遊び方なのかもしれない。




 私が生まれた時は、遠くの大病院へと行った。
 不妊治療の失敗で近所の産婦人科に懲りたからだ。
 ただ、やはり遠くは大変だったらしい。
 妹たちの時は元の通り、近所の産婦人科になった。

 私の1歳の誕生日になる前に妹が出来た。
 もちろん、私の記憶にはない。
 妹が来た日に私が何を思ったかなど覚えていない。



 私がよたよた歩き始めた頃。
 洗濯物の手伝いをするようになった。
 と言っても洗濯物を渡すだけだったらしいけれど。
 それを見て父が「ネコより役に立つ」と言った。
 もちろん、これも記憶にない。
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