19話 相談室
文字数 1,257文字
相談室は保健室の隣にあった。
2年の途中から卒業まで、放課後は相談室に行った。
相談室は二つに分かれていて、片方は『相談する場所』片方は『先生がいる場所』だった。
最初は相談者がいても、「静かにしているなら、いてもいいよ」と言ってもらえていた。
相談者は相談する場所、私たちは先生がいる場所で雑談をする。
けど、そのうち「今日は相談者がいるからダメ」と言われるようになった。
静かにしているつもりでも気配を消すことは出来ないし、相談者がいる事を知らないと「来たよー」と言って部屋に入ってくる子もいる。
相談者が気にして相談にならなくなったのだろう。相談者がいる日は鍵がかけられて、入れなくなった。
最初はこたみちゃんとだけ話していた私も、しばらくすると、他の子たちと話すようになり先生とも話すようになった。
相談室の先生は、私が推薦入試を受けた日、面接をした先生だった。
私がその先生を覚えていたのは、三つ編みをしていたからだ。長い髪を一つに編む先生は見た事がある。けど、お下げ髪を三つ編みにしている先生は初めて見た。
面接の時だけその髪形なのかなと思ったけれど、入学してすぐに『いつもその髪形』な事が分かった。
先生の方でも私を覚えていたらしく、「あの時の子でしょ」と話しかけられた。
やがて、近所の男の子 もやってくるようになった。
その男の子との接点は小学生以来だったので、こたみちゃんを通して普通に話せるようになった。
ただ、このお喋 りは相談室内だけのもので、廊下で出会っても私はこたみちゃん以外とはうまく話せなかった。
相談室の調子で話しかけてきた後輩に、私は返事が出来なかった。
廊下に出ている時に、こたみちゃんが私の方へやってきた。
「後輩君に渡したいものがあるケド、忙しくて時間がないの。渡してきて」と、私に頼んできた。
私は「無理」と返したが、こたみちゃんには、なぜ無理なのかが分からない。
「渡してくれるだけで良いから」
「いや……無理だって」
そのやり取りを何度か続けていると、たまたま後輩君が通りかかった。
「なにやっているんですか?」
と声をかけてくれたので、こたみちゃんはその場で後輩君に渡していた。
受験期間は相談室に来ない人が増えた。
受験が始まって、進学が決まった人は相談室に戻って、合格の報告をする。
それをお互いに喜び合った。
そして、卒業後に『相談室のみんな』で相談室に集まる事になった。
後輩君もやってきて、手作りカップケーキを持ってきてくれた。
私たちはそれを、美味しくいただきながら雑談にふけった。
薬学部に行く人、幼稚園教諭を目指す人、皆が未来の話をしている。
先生もその輪に入って、一人一人にコメントをしている。
私に対しては、「最後まで心を開いてくれなかったね」だった。
相談室通いは約1年半ほどで、雑談程度は話せる。それで十分ではないのだろうか。
私は首を傾 げてしまった。皆はそんなに『心を開いて話している』のだろうか。
何を話せば、心を開いたことになったのだろうか。
2年の途中から卒業まで、放課後は相談室に行った。
相談室は二つに分かれていて、片方は『相談する場所』片方は『先生がいる場所』だった。
最初は相談者がいても、「静かにしているなら、いてもいいよ」と言ってもらえていた。
相談者は相談する場所、私たちは先生がいる場所で雑談をする。
けど、そのうち「今日は相談者がいるからダメ」と言われるようになった。
静かにしているつもりでも気配を消すことは出来ないし、相談者がいる事を知らないと「来たよー」と言って部屋に入ってくる子もいる。
相談者が気にして相談にならなくなったのだろう。相談者がいる日は鍵がかけられて、入れなくなった。
最初はこたみちゃんとだけ話していた私も、しばらくすると、他の子たちと話すようになり先生とも話すようになった。
相談室の先生は、私が推薦入試を受けた日、面接をした先生だった。
私がその先生を覚えていたのは、三つ編みをしていたからだ。長い髪を一つに編む先生は見た事がある。けど、お下げ髪を三つ編みにしている先生は初めて見た。
面接の時だけその髪形なのかなと思ったけれど、入学してすぐに『いつもその髪形』な事が分かった。
先生の方でも私を覚えていたらしく、「あの時の子でしょ」と話しかけられた。
やがて、
その男の子との接点は小学生以来だったので、こたみちゃんを通して普通に話せるようになった。
ただ、このお
相談室の調子で話しかけてきた後輩に、私は返事が出来なかった。
廊下に出ている時に、こたみちゃんが私の方へやってきた。
「後輩君に渡したいものがあるケド、忙しくて時間がないの。渡してきて」と、私に頼んできた。
私は「無理」と返したが、こたみちゃんには、なぜ無理なのかが分からない。
「渡してくれるだけで良いから」
「いや……無理だって」
そのやり取りを何度か続けていると、たまたま後輩君が通りかかった。
「なにやっているんですか?」
と声をかけてくれたので、こたみちゃんはその場で後輩君に渡していた。
受験期間は相談室に来ない人が増えた。
受験が始まって、進学が決まった人は相談室に戻って、合格の報告をする。
それをお互いに喜び合った。
そして、卒業後に『相談室のみんな』で相談室に集まる事になった。
後輩君もやってきて、手作りカップケーキを持ってきてくれた。
私たちはそれを、美味しくいただきながら雑談にふけった。
薬学部に行く人、幼稚園教諭を目指す人、皆が未来の話をしている。
先生もその輪に入って、一人一人にコメントをしている。
私に対しては、「最後まで心を開いてくれなかったね」だった。
相談室通いは約1年半ほどで、雑談程度は話せる。それで十分ではないのだろうか。
私は首を
何を話せば、心を開いたことになったのだろうか。