8話 研修旅行と卒業 

文字数 1,419文字

 全てが億劫(おっくう)になりながらも、課題は辛うじてこなした。
 評価は最低、とりあえず提出したという程度の物しか出せなかった。

 研修旅行もあったが、これもまた一人で行動しようと思った。
 ……が、海外でずっと女一人行動はヤバいと思い直し、声をかけてくれたクラスメイトに便乗する事にした。
 その人たちも、私が一人で動くのをヤバいと思った面倒見のいい人たちだったのだと思う。

 治安が日本とは全然違う。
 最初の日、陽が落ちてからホテル近くのスーパーに買い物に行く事になった。
 大通りで明るく、周りにはクラスメイトがいる。
 けど、脇道は暗く怪し気な空気が流れていた。白人男性数人がこちらを見ているのに気がついて、『本当に危ない』と思った。
 明るい場所でも、うっかり脇道に連れ込まれたら死ねる。一人で歩いている小さな女の子()なんて、白人男性からすれば一捻りだなと思った。


 日本と同じ安全感覚でいたクラスメイト二人は、バスの中に貴重品を置いていた。
 それを知った先生は、
「ここは日本じゃないんだ。バスの中に置いておくと、運転手がとる事だってあるんだ」
 と力説していた。
 幸いその時は何事もなかったらしく、貴重品は取られてなかった。

 翌日、町を巡ってホテルに戻ると、貴重品を置いていった子の一人が、泣いていた。
 もう一人と、はぐれてしまったとのこと。しばらくすると、もう一人がホテルに戻ってきた。
 話を聞くと、ひったくりに会ったとのこと。
 その子は勇敢にもひったくりを追いかけて、カバンを取り返した。
 その後、迷子になってしまって、たまたま居合わせた日本人にホテルまで送ってもらったと話していた。
 カバンは返ってきたけど、お金はすでに抜き取られた後だった。
 日本円は手を付けられてなかったので、お金が全くないという事ではなかったらしい。
 全て、何事もなかったから『良かった』けど、何かあってもおかしくない事態。

 次の日に、先生から「ひったくりは、諦めて、追いかけるな」という、厳重注意が通達されたのは言うまでもない。
 海外のひったくりは、『生活』がかかっているので、殺される可能性もあるとのこと。

 街を歩いていても、子供を抱いた物乞いを1・2人ほど見かけた。
 彼らは子供をだしにして、物乞いをする。そうまでしなければ、生きていけない。


 日本と海外はかなり違うというのを実感した。



 帰ってくると、卒業制作に取り掛かる事になった。
 相変わらず、低空飛行の気分は続く。

 ある日、授業がある事を忘れて、パソコンで音楽を聞いていた。
 授業に気がついたのは、夕飯の前。
 そういえば今日……あれ?授業??
 真っ青になったが、後の祭りなので、諦めるしかなかった。
 日付を間違えていたとか、寝坊をしたとかではなく、授業の存在が消えていた。

 次の日は「どうした?昨日?」と先生から言われたけど
「家で作業をしていました(卒業制作中心だったので、家で作業しても大丈夫だった)」
 と答えておいた。
 でも、本当にきれいさっぱり頭から授業が消えていて、自分でもびっくりだった。

 そんなこんなで、卒業制作でもまた、やらかした。
 パネルの画鋲(がびょう)の止め方を間違えていた。……他人の作品を傷つけるやり方をしていた。
 それは、展示するときに指摘されて、やっと気がついた。
 けれど、説明をされた記憶も頭に残っていなかった。
 ……休んだ日に説明があったのだろうか?


 卒業制作もイマイチなまま、私は学校を卒業した。
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