10話 将来の夢の記憶

文字数 566文字

 6歳になる事が嫌だった。

 保育園のお誕生会をぼんやりと覚えている。
 クラス別ではなくて、全員が遊戯室に集まってみんなでお祝いをするのだ。
 6歳は『将来の夢』を発表しなくてはいけなかった。
 それを見ていたから、6歳の誕生日会は来なくていいと思っていた。

 それでも6歳の誕生日は来てしまうし、誕生日会も行われた。
 ただ、私の中の記憶は『将来の夢』の発表をどうしたのか覚えていない。
 黙っていたのか。先生が読み上げてくれたのか……。

 あんなに怖かった発表は、発表の前の方が記憶に残っている。


 発表の前に、紙に『将来の夢』を書いた。
 女の子はほとんど「およめさん」と書いたのだ。
 もちろん、私も≪それが妥当≫と思って、「およめさん」と書いた。

 しかく先生はそれを見て「みんなと同じはダメ」と言って、紙を突き返してきた。
 突き返された紙を目の前にして、迷った。
≪ケーキ屋さん≫
≪花屋さん≫
 無難な考えが、頭を巡るがどれもイマイチぴんと来ない。
【小説家】
『……。いやいや。それは、無理』
≪本屋≫
『……』

 迷った揚げ句、「ほんやさん」と書いた。



 大人になると夢を諦めるというけれど、私の場合6歳にして諦めていたんだな……と、今更思う。

 『小説家』の夢は、小学校2年の文集で書いてみた。
 ……けど、やはり無理と思ってそれ以降は一度も書いていない。
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