8話 小さな隔たり

文字数 996文字

 小学校も学年が上がると、男女を意識し始める。
 異性だと机を離したり、フォークダンスで手を(つな)がないなんていうのは、よくある事。
 けれども、それ以外の事が起こり始めた。

「臭い」

 と、数人に言われ始めた。最初は気にしないようにした。
 けれども、無視できないようになってきた。
 何が臭いのかが分からない。
 私が本当に臭いのならば、なぜ、他の人たちは言わないのか。
 言わないだけで、こころの中で思っているのではないか?という疑心暗鬼になり始めた。
 それまで(しゃべ)っていた相手とは、それまで通りの関係が続いている。
 こたみちゃんも、遊びには誘ってくれる。
 それは、我慢して誘ってくれているのだろうか?
 徐々に遊びの誘いを断る回数が増えた。
 それでも、こたみちゃんは誘ってくれる。
 聞いてしまえばいいのかもしれないけれども、聞くのも怖い。
 人と距離を取ることが増えた。
 なるべく近寄らない。それが最善に思えた。

 さらにそれは、無視に広がった。
 これもまた特定の数人だった。
 最初は特に困ることはない……と思っていた。
 けれども、困ることが起きた。
 プリントが回されない。委員会の知らせが来ない。
 私は開き直った。
 回って来ないプリントは最初からないモノとした。
 それが宿題であっても『ない』のだから、「忘れた」事にした。
 委員会についても、知らせが来ないのだから、行かない。
 適当な場所で時間をつぶして、帰る時間になったら帰る。
「なぜ来なかったの?」と言われたら「知らなかった」で通した。
 それ以降、委員会の知らせは来るようになった。
 プリントが回されない事も先生が気が付いて、注意されてからはなくなった。

 ある日、係の仕事を押し付けられたこともあった。
 明らかに一人でやるには終わらない仕事の量だった。
 呆然(ぼうぜん)としながらも、何とかなる……でやっていた。
 風ちゃんと海ちゃんが委員会を終えて教室に戻ってきた。
「まだやってるの?」「手伝うよ」
 と言ってくれて、手伝ってくれた。
 やがて、先生が来た。
「まだやっているのか?他のやつらは?」
「帰りました」と答えると、
「もう、いい加減に帰れ。残りは明日、他のやつらにやらせたらいい」
 と、作業はまだ残っていたけれども、帰る事になった。
 帰った人たちは次の日に、「押し付けて帰るな」と注意を受けていたようだった。

 もちろんそれからは、仕事を押し付けられる事もなくなった。
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