☆番外☆ 女の記憶

文字数 776文字

 弟は『唐突にやってきた、新たな兄弟』であると同時に
『私が女であり、要らないもの』という事を印象付ける存在でもあった。

 ド田舎の待望の長男である。
 周囲の喜びようは半端ではなかった。
 誰もが

「やっと、男の子ね。おめでとう」

 と言った。
 その言葉は女の私に重く伸し掛かった。
 母も父も、「やっと男の子が生まれた」なんて一言も言わなかったが、
 会う人、会う人が、「頑張ったわねお母さん。やっと男の子よ」と言う。
 その意味が、「家を継ぐ(役立つ)男が産まれてよかったね」だと思った。
 女はいくら生まれても役に立たないのだ。


 今でも兄弟の話をして、一番末が弟だというと
「お母さん、頑張ったわね(男の子が産まれるまで)」
 と、言われると何とも言えない気持ちになる。

 女の私はあっという間に弟に力で勝てなくなった。
 私が小学6年、弟が小学1年の時だった。
 妹と弟のケンカを止めようとして、弟に指をひねられた。
 指は捻挫した。
 利き手だったので数日間不便だった。
 それ以降、ケンカを止めるのはやめた。

 父や母はたとえそれがケガをするようなケンカでも、兄弟げんかは止めなかった。


   ☆番外☆ 言葉の記憶
 ***「痛み」という言葉の記憶***

 言葉をあまり知らないころ、『イタイ』は『イタイ』でしかなかった。

 ある時、腹痛で医者に行った。
 医者は私に
「ジンジン痛いの?それともチクチク?それとも、押されるような感じ?」
 と、いろんな痛みを聞いてきた。

 私は、その時、そんなにたくさんの痛みの種類がある事を知った。
 けれども、どの痛みかを伝えられなかった。

 チクチクってどんな痛み?
 ジンジンって何?
 押されるってどれくらい?

 考えても考えても、分からなかったのだ。
 今なら、これが『ジンジン』かなとか、『チクチクする』とか『押されている』みたいな痛みが分かる。

 言葉って難しい。
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